このジレンマは、オッペンハイマーを激しくさいなんだ。ニューメキシコ州の実験場で最初の原爆が爆発した後、オッペンハイマーはヒンドゥー教の経典の一節を引用して、沈痛な口調でこう述べている。「私はいま死となり、世界の破壊者となった」

オッペンハイマーは高慢であり、反共ヒステリーに侵された世界で愚かにも無垢でもあった。彼はある女性を愛し(彼女は共産主義者だった)、友人が彼を操ろうとするのを見逃し(彼はソ連のスパイだった)、その結果、身の破滅の寸前まで行った。

原爆の開発に取り組んでいる最中なのに、より凄絶な破壊力を持つ水爆の開発を止めようとした。だが、彼がやらなくても他の誰かがやることも知っていた。広島原爆の7年後、最初の水爆が南太平洋エニウェトク環礁上空で爆発した。広島上空で炸裂した「リトルボーイ」の100倍以上の破壊力だった。

映画の終盤、オッペンハイマーは静かな池のほとりでアルバート・アインシュタインに言う──私が以前、「世界全体を滅ぼす連鎖反応の引き金を引いてしまうのではないか」という不安を述べたことを覚えているか、と。「覚えている」と、アインシュタインは答え、続ける。「それで?」

「そのとおりになったのではないかと恐れている」と、オッペンハイマーは言う。

核兵器による大量殺戮を直接経験した国民は、日本人だけだ。広島と長崎の原爆投下から78年が経過した今も、日本人はその出来事に苦しみ続けている。

しかし、だからこそ日本人はこの映画を見たほうがいい。人類を救おうとして人類を滅ぼす手段をつくり出さざるを得なかった男の苦悩がそこには描かれている。

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