そのようないくつもの出来事を見ながら、エジプト革命で政治を主導するようになった同胞団と、少数派のコプト教徒の間で、革命前にはなかった連携が生まれているのを感じた。エジプト革命以前は警察が国民を監視し、分断した体制だった。その警察国家が崩れたことで、初めてムバラク時代は政府支持だったコプト教徒と、政府批判勢力でありながらイスラム教徒の間に支持を広げていた同胞団の間で接触する機縁が生まれた。

 それはエジプト社会全体の安定にとっても明るい材料だと思った。しかし、2014年に同胞団出身のムルシ大統領が軍のクーデターで排除され、軍主導政権が生まれて、暗転した。同胞団は弾圧され、コプト教徒の多くは政府支持となり、元の対立の構図に戻った。

軍主導政権のもと、経済は悪化し、社会は分断

 クーデターを率いた参謀総長だったシーシ大統領の下で、イスラム系ではない世俗派の若者たちも政治的に抑えられ、言論弾圧などはムバラク時代よりもひどくなっている。さらに、シナイ半島に拠点を持つ「イスラム国」系武装勢力のテロなどによって、エジプト観光はにとって2016年は最悪の年となり、経済状況は悪化している。

 財政危機に陥っている政権は国際通貨基金(IMF)から支援を求めたが、為替制度の改革が支援実行の条件となり、エジプト中央銀行は11月初めに通貨エジプトポンドを変動相場制へ移行した。それまでの1ドル=8.8エジプトポンドに固定されていた対ドル為替レートは暫定的に1ドル=13エジプトポンドに設定されたが、12月初めには1ドル=18ポンドとなり、ポンドの下落が続いた。エジプトポンドの急激な下落は、輸入品の高騰になり、一方でガソリンや米・砂糖などの食料が値上げされ、人々の生活は苦境に陥っている。

【参考記事】エジプトの人権侵害を問わない日本のメディア

 テロは常に「ソフト・ターゲット」を狙うものであり、軍主導政権に対する国民の不満や怒りが、コプト教会への今回のテロの背景となっていると考えるべきだろう。6年前のコプト教会のテロの時と異なるのは、今回はイスラム教徒とコプト教徒が幅広く「反テロ」で連携するような動きは起きそうにないことだ。さらに、コプト教徒を敵視する過激なサラフィー主義者との間に割って入る同胞団は手足を縛られている。

 社会の亀裂が深まっているなかで、コプト教徒は安全のためにさらに軍の強権に依存せざるを得なくなくなるだろう。しかし、社会に過激派が浸透するのを防ぐのは、市民の間の連絡と連携であり、社会の分裂が過激派のテロを生むことは、イラク戦争後にシーア派とスンニ派が対立し、現在の「イスラム国」につながるイスラム過激派が生まれたことを見ても明らかである。

 今回のコプト教会の爆弾テロは、強権の下でエジプト社会が亀裂を深めた結果であり、さらにこれを契機として、さらなる悪化に進むのではないか、という懸念を抱かざるを得ない。

【キリスト教会テロ解説・後編】イスラム教・キリスト教の対立を描くエジプト映画