最新記事

日本政治

総務省文書はなぜ流出したか

The Leaked Documents Case

2023年3月30日(木)14時00分
北島 純(社会構想⼤学院⼤学教授)

総務省は16年2月、「政府統一見解」を公表し、「番組全体を見て判断するとしても、それは一つ一つの番組の『集合体』であるから、一つ一つの番組を見て全体を判断することは当然のこと」だとする玉虫色の弁明を行った。

確かに「極端な場合」という言葉は64年の答弁で既に言及され、その補足説明を加えたにすぎないのなら、解釈の大枠に変更はないことになる。だが実質的には「特定の個別番組のみ」を判断材料にすることを許容し、放送法解釈の「修正または変更」に舵を切ったに等しい。

今回の文書流出は、こうした放送法解釈の修正または変更が「官邸一強体制」を築き上げた第2次安倍政権下で、首相補佐官の「政治的圧力」により行われたことを示唆する。ゆえに衝撃を与えたのだ。

孤立無縁になった高市

注目が集まるもう1つの点は流出の背景事情だ。

旧郵政省出身である小西議員は文書入手の詳細を明らかにしていないが、入手時期は昨年とも比較的最近とも言われる。国会質疑自体が今になったのは、昨年の臨時国会でもっぱら国民的関心事になっていた旧統一教会問題や閣僚の「政治とカネ」問題が一段落し、通常国会で来年度予算案が衆議院を通過した後のタイミングという説明がつく。しかし、総務省内からの流出時期はその背景を物語る。

言うまでもなく、昨年7月8日の安倍元首相狙撃事件を境に、自民党派閥政治や財務省や経産省の政治への影響力に「権力の地殻変動」が生じた。清和会(安倍派)が後継者を決めあぐねている間に、岸田文雄首相(宏池会)は麻生太郎副総裁(志公会)や茂木敏充幹事長(平成研)と手を組み、財務省や外務省を重用する官僚依存の政治体制を構築しつつある。

片や総務省は、21年春の東北新社・NTT接待事件で総務審議官、情報流通行政局長、放送政策課長ら旧郵政省出身の幹部が軒並み更迭された傷が癒えていない。総務省に強い影響力を有していた菅義偉前首相は、岸田政権下で非主流派に回っている。

他方で、高市氏の秘書官を務めた総務官僚(旧自治省出身)が、出向先の岐阜県副知事を昨年6月末に退任し、12月に高市氏の地元である奈良県知事選への立候補を正式に表明した。その結果、知事選は現職知事との間で保守分裂選挙になる混乱に陥っている。

高市氏自身も、12月8日に岸田首相が防衛増税を表明すると、現役閣僚でありながら「罷免されても仕方ない」と首相を批判した。

高市氏が総務相時代の19年にかんぽ生命保険不正販売事件に関連して事務次官(旧郵政省出身)を事実上更迭したことへの旧郵政省側の意趣返しだ、という指摘もある。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中