最新記事

中国

中国反政府デモの発火点となった高層住宅火災で起こったゼロコロナの悲劇とは

"They never care": Angry relatives of China fire victims dispute death toll

2022年11月29日(火)18時33分
イザベル・ファン・ブリューゲン

ウルムチの高層住宅の火事と消防隊(11月24日) From video obtained by REUTERS

<習近平国家首席の退陣を叫ぶ抗議デモが中国全土に広がるきっかけとなったウルムチの火災で、人はいかにしてゼロコロナの犠牲になったのか。本当は何人が犠牲になったのか>

中国北西部の新疆ウイグル自治区ウルムチ市で、中国政府の新型コロナウイルス対策に抗議する大規模なデモが発生した。ウルムチでは24日に発生した火災で複数の犠牲者が出ており、過度な新型コロナ対策が救助の障害になったのではないかと市民の怒りが高まっている。またこの火災で家族5人を失ったという女性は、政府が発表した死者数に異議を唱えている。

24日夜にウルムチ市内の高層住宅で発生した火災は、鎮火までに3時間を要し、地元当局によればこの火災で10人が死亡、9人が負傷した。

新疆ウイグル自治区にはチュルク語を話すウイグル人が暮らしており、彼らの大半がイスラム教徒だ。中国共産党は1949年にこの地域を支配下に組み込んで以降、テロや過激主義、分離主義の取り締まりを理由に挙げて、長年にわたってウイグル人を弾圧してきた。

中国は新型コロナウイルスのパンデミックが発生してから3年が経った現在も、習近平国家主席が厳しい「ゼロコロナ政策」を維持している。再び感染者が増えてきているなか、ウルムチは約3カ月前からロックダウン下に置かれている。

家族5人が焼け死んだ

PHOTO2.jpgMERHABA MUHAMMAD

こうしたなかで発生した24日の火災を受けて、ウルムチをはじめとする中国各地で数年ぶりとなる大規模な抗議デモに火がついた。多くの人が、悲劇は防げたはずだと考えている。

新疆ウイグル自治区出身のウイグル人で、現在はトルコで暮らすメルハバ・ムハマド(27)は、叔母のヘルニシャハン・アブドゥレヘマ(48)とその4人の子ども(5~13)を火災で亡くした。彼女は本誌に対して、叔母一家は5年前から、火災のあった高層住宅の19階で暮らしていたと語った。

ムハマドは留学のために2016年にトルコに渡って以降、叔母とは連絡が取れていないという。新疆ウイグル自治区では、海外にいる親族と連絡を取ったウイグル人は、身柄を拘束されて「再教育施設」に収容されるおそれがあるのだ。

ムハマドは、ウルムチ住民がSNSで交わすグループチャットのスクリーンショットを見て叔母の死を知ったという。「チャットには『1901号室を助けて』と書かれていた。叔母の家だ」と彼女は述べた。

自分の親族だけでも5人が死亡しているのだから、中国政府が公式発表した火災の死者数が本当のはずがない、と彼女は主張した。

「死者がたった10人だなんて。私の叔母一家だけで5人死んでいるのに。ソーシャルメディアでは44人が死亡んだ、という人もいた。それより多かった可能性もある。ある母親は『2人の子どもを失った』と号泣していた」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

官僚時代は「米と対立ばかり」、訪米は隔世の感=斎藤

ビジネス

全国コアCPI、3月は+2.6% 年度内の2%割れ

ワールド

ロシアが政府職員の出国制限強化、機密漏洩を警戒=関

ビジネス

G20、米利下げ観測後退で債務巡る議論に緊急性=ブ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中