最新記事

動物

ミツバチの新たな驚異、「親がオス2匹」の個体発見

Bee With Two Fathers and No Mother Discovered

2018年11月28日(水)16時45分
ハンナ・オズボーン

ミツバチは柔軟で驚くべき生殖システムをもっている Stephane Mahe-REUTERS

<オスとメスを意のままに産み分ける不思議に加え、初めて母親のいないミツバチが見つかった>

父親が2匹いて母親がいないメスのミツバチが発見された。こうしたケースが確認されたのは初めてのことだ。

ミツバチは半倍数性であることが知られている。受精卵がメスになり、未受精卵がオスになる性決定システムだ。だが、1~2%のケースでは、「性モザイク」と呼ばれる別のシステムが見られることがある。このケースに該当するミツバチは雌雄モザイクと呼ばれ、異なる由来および異なる性別を持つ複数の細胞系から発達する。

オーストラリアのシドニー大学のサラ・アーミドーらは、ミツバチにおける生殖の柔軟性をより深く理解するために、雌雄モザイクのミツバチを調べた。雌雄モザイクが遺伝子変異の結果として生じることはわかっているが、それがなぜ、どのようにして起きるのかは明らかになっていない。

哺乳類では、精子が卵に入って卵が受精すると、化学反応が生じ、ほかの精子が卵に入れなくなる。しかしミツバチでは、複数の精子が卵の中に入ることができる。多精子受精と呼ばれる現象だ。通常、雌雄モザイクではこの現象が起きている。体内に入った複数の複数の精子を、女王バチが使うと決めればメスになり、使わないと決めればオスになる(そして女王バチは交尾した無数のオスの遺伝情報を死ぬまで記憶する、という説もある)。「卵は分裂を始め、胚の一部になる」と、アーミドーは本誌に説明した。

英王立協会の専門誌「バイオロジー・レターズ」で発表されたアーミドーらの研究では、単一コロニーに属する雌雄モザイクのミツバチ11個体の遺伝子調査を実施した。それを解剖および画像化し、身体のさまざまな部位から組織を採取した。さらにDNAを抽出して分析した。

母親由来の遺伝物質をもたない子供

調査したミツバチのほとんどは、3つまたは4つの親起源を持つことがわかった。1匹の母親に対して、2匹または3匹の父親がいるということだ。2匹の父親から生まれ、母親がいないミツバチ1匹の存在も確認された。母親由来の遺伝物質をいっさい持っていないのだ。研究チームは、このミツバチは2つの精子の融合により生まれたと主張している。

「膜翅目において、2匹の父親がいて母親がいないミツバチの現象が報告されたのは、これが初めてだ」とアーミドーは述べている。「哺乳類では、2匹の父親(または母親)を持つ胚は発生できない。それだけに、これには非常に驚いた。この現象を可能にしているのは、ミツバチが多精子受精することと、ミツバチのゲノム融合の柔軟性がきわめて高いことだ。そうした柔軟性の高さは、ミツバチが半倍数性であることに起因している可能性がある」

2匹の精子から生まれたメスと、4匹の親を持つ生きたミツバチの発見は、ミツバチにおける生殖の柔軟性の高さを理解するための新たな手がかりになる。研究チームは結論として、そうした柔軟性は、アリやスズメバチといったほかの半倍数性昆虫にも見られる可能性があると述べている。「すでに知られているこれらの例のほかにも、それに劣らず突飛な、まだ明らかになっていない、あるいは想像さえされていない社会システムが存在している可能性がある」と、研究チームは書いている。

(翻訳:ガリレオ)

ニューズウィーク日本版 日本時代劇の挑戦
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月9日号(12月2日発売)は「日本時代劇の挑戦」特集。『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』 ……世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』/岡田准一 ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏第3四半期GDP、前期比+0.3%に上方修

ワールド

米、欧州主導のNATO防衛に2027年の期限設定=

ビジネス

中国の航空大手、日本便キャンセル無料を来年3月まで

ビジネス

金融政策の具体的手法は日銀に、適切な運営期待=城内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 9
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 10
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中