最新記事

中東

サウジ突然の政変、その真の狙いはどこにある

2017年11月17日(金)15時40分
アイザック・チョティナー(スレート誌記者)

ムハンマドはサウジアラビアの現代化を推進する人物として評判だが Hamad I Mohammed-REUTERS

<汚職を理由に王子ら有力者を拘束。逮捕を指示した皇太子の思惑とサウジアラビアに迫る政治・社会的変化とは>

サウジアラビア政府が11月4日、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子の指示の下、王子や大物実業家、現職閣僚ら有力者数十人を一斉に逮捕した。王子11人の中には、国際的投資家でシティグループやツイッターの大株主であるアルワリード・ビン・タラルも含まれる。

一斉逮捕の理由は汚職とされているが、サウジアラビアが困難な移行期を迎えるなか、ムハンマドが権力強化に動きだしたことはほぼ間違いない。同国は中東で、イランとの激烈な主導権争いにはまり込んでいる。その一方、国家の生命線となってきた石油の未来に対する懸念が高まり、国内では社会変革への欲求が広がる。

ムハンマドは宗教界の権力を制限する策を講じ、国内で禁じられてきた女性の自動車運転の容認を後押しした人物だ。しかし隣国イエメンでの血みどろの内戦の「黒幕」でもあり、自らへの異議を許さない。

果たして、最新の動きは何を意味するのか。ムハンマドが望む変化とはどのようなものか。汚職取り締まりの真の狙いは何か。米ウッドロー・ウィルソン国際研究センターのデービッド・オッタウェイ中東担当研究員に、スレート誌記者アイザック・チョティナーが電話で話を聞いた。

***


――今回の一斉逮捕をどう捉えるべきか。

おそらく(ムハンマドは)権力固めを進め、王位継承の障害を排除しようとしている。父親のサルマン国王はもう81歳で、健康状態が良くない。だが同時に、これは新たな統治の形へ向かう動きでもあるのではないか。従来のように複数の王子が権力を共有するのではなく、1人が権力を掌握する形だ。

――今回の一件にイデオロギー的な側面はあるのか。

イデオロギーの問題ではないし、本質的には政府内の汚職と戦う取り組みですらないと思う。新たに立ち上げた汚職対策組織の名の下での動きだが、目的は汚職撲滅ではないはずだ。

――ムハンマドは「現代化」を掲げる人物として評判だ。イデオロギーが無関係なら、背後には何か実質的な狙いがあるのか。

ムハンマドは現代化に着手しているが、それが理由で一斉逮捕に踏み切ったのではない。

彼は女性や若者層が抱く要求の一部を実現しようとしている。職を求める声、より自立して生きたいと願う女性の声に応えようとしている。(その結果として)来年6月から女性の自動車運転が解禁される。さらに、女性に対して経済分野の門戸も開こうとしている。

石油への全面的依存から脱却しようとしている点で、ムハンマドは経済の現代化も目指しているといえる。しかし、今回逮捕された人々は現代化に反対していたわけではないはずだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

BIS、金と株価の同時バブルの可能性を警告

ワールド

トランプ氏、EUのX制裁金を批判 欧州は「悪い方向

ワールド

トランプ氏が120億ドルの農家支援策、関税収入充当

ビジネス

SBGとエヌビディア、ロボティクス新興に投資検討 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    死刑は「やむを得ない」と言う人は、おそらく本当の…
  • 10
    米、ウクライナ支援から「撤退の可能性」──トランプ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中