最新記事

少数民族

ミャンマー軍のロヒンギャ弾圧に何もしない米トランプ政権

2017年9月12日(火)21時50分
マーチン・ボールモント、ロビー・グレイマー

米国務省のパトリック・マーフィー次官補代理(東南アジア担当)は9月8日、ミャンマー情勢に関して記者団に説明を行った時、トランプ政権が対ミャンマー政策で最優先に掲げるのは民主化だと語った。そのうえで目下の焦点は、迫害の舞台となっている南西部のラカイン州北部で、ミャンマー政府が人権団体やメディア関係者の受け入れを再開するよう圧力をかけることだと言った。

1962~2011年まで軍政が続いたミャンマーは、つい最近まで国際社会で最も孤立した国の1つだった。2010年に不完全ながら政治の自由化に舵を切ったのをきっかけに、バラク・オバマ前政権の高官がミャンマーを訪問するようになった。2011年にはヒラリー・クリントン元米国務長官が親善大使として同国を訪問したのを機に、ミャンマー投資の規制緩和を発表。2016年には「ミャンマーの民主化が実質的に進展した」として、経済制裁を全面的に解除した。

だがミャンマー政府によるロヒンギャの弾圧は、民主化を挫折させかねない。シンクタンク国際危機グループ(ICG)は8日の声明で、ロヒンギャに対する全面的な弾圧で生まれた人道危機は、これまでミャンマーが成し遂げた民主化の過程を台無しにすると警告した。

ロヒンギャを片端から標的にすれば、ロヒンギャが集まる地域が政治的に不安定化し、武装勢力による暴力行為を正当化するだけだと、ICGは指摘する。「ミャンマーで暮らす人々や、同国の民主化や地域の安定化に対して、重大なリスクを及ぼすことになる」

米政府には圧力をかける力がある

米政府はもっとミャンマー政府に圧力を及ぼせるはずだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチのロバートソンは言う。この5年間、ミャンマーを物資両面で支援してきた米政府は、ミャンマー政府の指導者層、特に軍人や事実上の最高指導者で「民主化指導者」のアウン・サン・スー・チーに対して、ある程度の貸しがある。民族浄化を止めよ、さもなければ「軍事的にも、外交的にも、経済的にも途方もない代償を支払うことになる」と詰め寄るべきだと、ロバートソンは言う。暴力が止み、国際社会の視察団が調査を始められるまで、米国防省がミャンマー軍との軍事協力を停止することもあり得るという。

【参考記事】スーチーが「民族浄化」を批判できない理由

一方、バングラデシュとの国境を越えて避難したロヒンギャ難民は、難民キャンプにあふれかえり、難民の流入がいつまで続くか終わりが見えない。

「さらに多数の難民が押し寄せてくると覚悟しなければならない。不安だ」とUNHCRでバングラデシュを担当するシンニ・クボは言った。「巨額の財政支援が必要だ。前例がなく、まるでドラマだ。今後何週間もずっと続くだろう」

(翻訳:河原里香)

From Foreign Policy Magazine

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
ご登録(無料)はこちらから=>>


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中