最新記事

企業

アマゾンの複雑で周到過ぎる節税対策

2017年9月8日(金)17時00分
サイモン・マークス

ベゾスは創業時から租税回避に情熱を傾けていた(写真は昨年12月にトランプタワーを訪れたベゾス) Andrew Kelly-REUTERS

<ルクセンブルクの海外本部を中心とする子会社網を使った、アマゾンの巧妙な租税回避策が明るみに>

eコマース事業の拠点をどこに置こうか考えていた95年、ジェフ・ベゾスにとっての第1候補はシアトルではなかった。今や世界最大手のオンラインショップとなったアマゾンのCEOが目を付けていたのは、納税額をかなり低く抑えられるサンフランシスコ郊外の先住民居留地だった。

この計画はカリフォルニア州当局につぶされたが、租税回避に懸けるベゾスの情熱がこれで失われたわけではなかった。創業から20年以上にわたり世界に事業を拡大するなかで、ベゾスはアマゾンが税金面で競争力を持てるよう取り組んできた。

本誌は昨年、アマゾンと米税務当局である内国歳入庁の法廷闘争の資料を入手。一連の資料は、アマゾンが国際的な優位を獲得した一因が、ヨーロッパの小国ルクセンブルクに海外本部を構えたことにあると示している。

優遇措置をめぐるアマゾンとルクセンブルクの取り決めの中核にあるのが、ジャンクロード・ユンケルの存在だ。彼は95~13年にルクセンブルクの首相を務め、14年に欧州委員会委員長に就任した。

法廷資料には、アマゾンの税制問題担当幹部らがユンケルと会談したことが記されていた。両者の交渉における重要な時期に会談が行われたという証拠により、進行中の欧州議会税制特別委員会の調査が加速する可能性もある。

EUでは昨年7月、多国籍企業による租税回避への対策案を採択した。企業が租税回避のために利用する最も一般的な方法(利益を税率の低い国や地域に人為的に移行させるなど)の阻止を狙いとするものだ。

前述の法廷資料によれば、アマゾンは01年に国際的な会計事務所デロイトのエコノミストに依頼し、納税額を抑えるための方策を検討させている。さらにアマゾン社内には、ルクセンブルクに海外本部を設置し、迷路のように絡み合う子会社のネットワークを通じて他地域の収益を同国に移行させるという税対策イニシアチブ「プロジェクト・ゴールドクレスト」がある。

このプロジェクトは、一連の複雑な企業間契約を利用して、ソフトウエアや商標その他の知的財産から成る無形資産を、ルクセンブルクにあるアマゾンの子会社アマゾン・ヨーロッパ・ホールディング・テクノロジーズ(AEHT)に移行させるもの。さらに別の子会社であるアマゾンEUSarlがAEHTに毎年、巨額の無形資産「使用料」を支払い、課税対象利益を減らす仕組みになっている。

【参考記事】アマゾンは独禁法違反? 「世界一」ベゾスにいよいよ迫る法の壁

国家の税制に挑むシステム

AEHTはヨーロッパにおけるライセンス使用権を管理する代わりに、アマゾンのアメリカ国内の子会社に支払いを行っている。米当局は本来アメリカに流れるべき支払額が低税率のルクセンブルクに不当にとどまっていると考え、アマゾンを租税回避で訴えた。

米当局による調査結果を示す文書によれば、アマゾンはルクセンブルクにおける税制面の取り決めに関する監査の際、重要なデータを隠した。プロジェクト・ゴールドクレストによってもたらされると予想される税制上の恩恵を一部、隠蔽したのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイス中銀、リオ・ティント株売却 資源採取産業から

ワールド

ドイツ外相の中国訪問延期、会談の調整つかず

ビジネス

ヘッジファンド、AI関連株投資が16年以来の高水準

ワールド

ロシア、米欧の新たな制裁を分析中 国益に沿って行動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 2
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼稚園をロシアが攻撃 「惨劇の様子」を捉えた映像が話題に
  • 3
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシアに続くのは意外な「あの国」!?
  • 4
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 7
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 8
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 9
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 10
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 9
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 10
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中