最新記事

インド外交

インドのしたたかさを知らず、印中対決に期待し過ぎる欧米

2017年8月5日(土)12時30分
河東哲夫(本誌コラムニスト)

インドビジネスの強みはバランス感覚 Mukesh Gupta-REUTERS

<係争地で緊張を高めるかに見える「竜(中国)」と「象(インド)」。それでも対中包囲網の強化を期待できない理由とは>

これからの世界の両雄、中国とインドの関係がきな臭い。

6月16日に中国軍はブータンとの係争地ドクラム高地に侵入して、道路建設を開始した。ここはインドの中心部と北東端アルナチャルプラデシュ州を結ぶ回廊に近い戦略地点。中国軍はブータンとインドの抗議を尻目に居座っている。

今回の関係悪化は4月に始まった。4日にチベット仏教の最高指導者でインドに亡命しているダライ・ラマ14世がチベットのすぐ隣、アルナチャルプラデシュ州を訪問し、約1週間滞在してからだ。

5月14日に北京で開かれた一帯一路サミットにインドは参加を見送った。中国がインドと係争中のカシミール東部で開発を進めようとしていると不快感を表明し、国境問題を持ち出した形だ。さらに6月3日朝に、中国軍の攻撃ヘリがインド北部のウッタラカンド州に侵入した。

インドと中国は決別した――そう早とちりして欧米がインドを引き込むチャンスと思い込むと手痛い目に遭うだろう。インドはアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設メンバーだ。中国も6月9日の上海協力機構(SCO)首脳会議で、これまでの抵抗をやめてインドの加盟を認めている。

インドは米中ロ各国と付かず離れず、バランスを取るのにたけている。例えば軍事面でインドはロシアと陸海空の共同演習を、日米とは東シナ海やインド洋で海軍共同演習を定期的に行う。さらに中国を南北で挟む位置にあるモンゴルとも小規模共同演習を行う一方で、インドは中国とも共同演習を続けている。

【参考記事】「インドと戦う用意ある」中国が中印国境で実弾演習

親密な「竜象共舞時代」

インドにとってこれまで、最大の脅威は隣国パキスタン。もともと一つの国だったのが宗教を理由に別の国となり、カシミールで領土係争を抱え、テロを仕掛けてくるからだという。

だが、中国はいま押せ押せムードだ。ネパールではインドの影響力を覆す勢いだし、アフリカ東部のジブチに海軍基地を設けた。さらにインド洋ではパキスタンのグワダル港やスリランカのコロンボ港などの整備も手掛け、モルディブでも地歩を築いている。まるで「真珠の首飾り」でインドを締め上げるかのようだ。

ただ、インドは中国海軍を深刻な脅威とは思っていない。中国艦船の多くはマラッカ海峡を通ってインド洋に入る。その途上にあるアンダマン・ニコバル諸島にはインド海軍の基地があり、中国海軍を捕捉できる。インド海軍には中国空母「遼寧」に匹敵する空母もある。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米雇用統計、4月予想上回る17.7万人増 失業率4

ワールド

ドイツ情報機関、極右政党AfDを「過激派」に指定

ビジネス

ユーロ圏CPI、4月はサービス上昇でコア加速 6月

ワールド

ガザ支援の民間船舶に無人機攻撃、NGOはイスラエル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中