最新記事

フィリピン

フィリピン麻薬戦争、韓国人殺害でドゥテルテ大統領が急ブレーキ

2017年2月17日(金)12時14分

2月13日、フィリピンのドゥテルテ大統領が、自身が掲げた看板政策ともいえる情け容赦のない麻薬撲滅戦争において、警察を主役の座から外すという「急転換」を決断した背景とは。写真はケソンで6日、韓国人ビジネスマンの死を悼み、白い風船を手にするフィリピンの人々(2017年 ロイター/Erik De Castro)

フィリピンのドゥテルテ大統領が先月29日、治安部門のトップを緊急会議に招集したとき、彼の心はすでに決まっていた。それは軍や警察の幹部がまったく予期しない事態だった。

昨年6月に就任した大統領の看板政策ともいえる情け容赦のない麻薬撲滅戦争において、警察を主役の座から外すというのだ。この急転換の理由は1つしかない、と緊急会議に出席した3人の関係者はロイターに語った。

そのときドゥテルテ大統領は激怒していた。麻薬犯罪捜査部門の警察官が、韓国人ビジネスマンを誘拐し殺害。それも、こともあろうに、ケソンのフィリピン国家警察の本部内で絞殺していたというのだ。

「大統領は単刀直入にこう言った。麻薬対策部門を一つ残らず解散することを命じる、と」。大統領府での会合に出席していたロレンザーナ国防相はそう語った。

そして、警察よりもはるかに規模の小さいフィリピン麻薬取締庁(PDEA)が、軍の支援を得つつ、麻薬取締業務を引き継ぐことを大統領は決定した。

これはドゥテルテ大統領による驚くべき転換と言えるだろう。

警察官らが超法規的な殺人を犯し、殺し屋と共謀しているという告発が何カ月にもわたって続くなか、同大統領は一貫して警察を支持していた。この「麻薬戦争」による死者は7カ月で7600人以上に達しており、多くは麻薬の密売人や常習者とされている。

乱暴な物言いで知られるドゥテルテ大統領は、麻薬戦争の行き過ぎを戒める国連や米国、欧州連合からの呼び掛けを繰り返し無視したうえで、「愚か者」呼ばわりや、侮蔑の言葉で応じてきた。大統領の気まぐれなスタイルに慣れている側近たちも、1人の外国人の死が、わが道を行く大統領の歯止めとなったことに意表を突かれた。

説明として考えられるのは、フィリピンにとって韓国との関係が、開発援助や観光、海外雇用、武器供与の点で、きわめて重要であるという点である。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ大統領、中南米に空母派遣へ 軍事プレゼンス

ワールド

米朝首脳会談の実現呼びかけ、韓国統一相、関係改善期

ワールド

ロシア特使が訪米を確認、「対話継続を示す証拠」

ワールド

レーガン氏の自由貿易擁護演説が脚光、米カナダ間の新
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...装いの「ある点」めぐってネット騒然
  • 2
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月29日、ハーバード大教授「休暇はXデーの前に」
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 9
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中