最新記事

米外交

トランプの外交政策は孤立主義か拡張主義か

2016年11月14日(月)18時47分
エマ・アシュフォード(米ケイトー研究所研究員)

トランプの長女イヴァンカは駐日大使の噂も Gary Cameron-REUTERS

<選挙中の外交についての演説は矛盾だらけで、孤立主義から帝国主義まで何でもありうる>

 ニューヨークのブロードウェイで大ヒット中のミュージカル「ハミルトン」のなかで、イギリスから独立を勝ち取った元の臣下たちにイギリス王ジョージ3世が詰め寄る場面がある。「自分たちのしたことは正しかったと思うのか」

「次は何が起きると思う?」と王は尋ねる。「君たちは自由の身だ。国を率いるのがどれほどかわかるか。誰も助けてはくれない。これから何が起きるか、少しでもわかっているのか?」

 私たちは今、自分に同じ疑問をぶつける必要がある。

 予想を覆して次期大統領の座を射止めたドナルド・トランプはいったい、どんな政策に取り組むのか? これから何が起こるのか?

【参考記事】「トランプ大統領誕生」で日本のメリットは何か?

 外交政策に関するトランプの言動は、大統領選を通じてずっと矛盾だらけだった。イラン核合意の破棄を主張する共和党のタカ派的な主張から、シリアなど中東の国々における紛争からは逆に手を引くという独自の姿勢を見せた。ロシアに対しては共和党の従来の強硬路線からは一転、妥協策を打ち出した。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対して異常な執着を示し、褒めちぎってきた。

 果たして今度は何が起きるだろう。トランプ政権はどんな外交政策を推進するだろうか。米紙ワシントン・ポストの政治コラムで、ジョージ・ワシントン大学のエリザベス・サンダース教授は次のように指摘する。経験不足の大統領の下では、アドバイザーが幅を利かせる傾向がある。だから、トランプが外交政策でどんな選択をするかは、彼がアドバイザーに誰を選ぶかにかかっている。想像できるシナリオは以下2通りだ。

シナリオ1)孤立主義

 共和党のなかでも極右に近い人々がアドバイザーに付くなら、トランプ政権は「アメリカ第一主義」に傾き、貿易や移民を攻撃する政策を採るだろう。選挙でトランプに勝利をもたらしたのもそうした主張だった。

 現政権より改善される部分もある。中東の内戦に対するアメリカの関与が減り、ロシアとの関係も改善されるかもしれない。

 だが、よく孤立主義と間違えられるこうした慎重で抑制のきいた外交政策と違い、トランプの政策は本物の孤立主義に陥るだろう。貿易や移民の規制とともに外交は不活発になり、アメリカは世界の舞台から遠のいていく。

【参考記事】トランプの経済政策は、アメリカだけが得をする「歪んだグローバリズム」

 トランプは全力で勝つことに固執する。勝つか、負けるかだ。そうなれば他国とのゼロサム的な摩擦が増えて、他の大国との危険な貿易戦争にも発展しかねない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

英サービスPMI4月改定値、約1年ぶり高水準 成長

ワールド

ノルウェー中銀、金利据え置き 引き締め長期化の可能

ワールド

トルコCPI、4月は前年比+69.8% 22年以来

ビジネス

ドル/円、一時152.75円 週初から3%超の円高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中