最新記事

食糧

北朝鮮の飢餓の元凶は国際援助?

今年は「100年に1度」の干ばつだという北朝鮮、飢饉がなくならない本当の理由

2015年7月24日(金)18時30分
ベンジャミン・カッツェフ・シルバースタイン

自給自足経済 平壌郊外の果樹園で農作業をする人々 Bobby Yip-REUTERS

 北朝鮮の国営メディアによれば、今年の干ばつは「100年に1度」のひどいものだとか。現にユニセフ(国連児童基金)も、安全な飲み水の不足で北朝鮮の子供たちが下痢に苦しんでいると報告している。

 でも、それはおなじみの光景だ。あの国では食糧不足や大規模な自然災害が、年中行事のように頻繁に訪れている。07年夏には近年で最悪レベルの洪水に襲われ、数十万人が家を失い、少なくとも数百人が死亡した。昨年の6月には「10年に1度」の干ばつがあったばかりだ。

 なぜ、そんなに非常事態が繰り返されるのか。北朝鮮が自然災害を克服できず、国民に十分な食糧を提供できないのは、国の政策が悪いからだ。北朝鮮では90年代に大飢饉が起き、経済の崩壊で数十万人が餓死したが、それでも政府は建国以来の「主体」思想に基づく食糧自給政策を変えずにきた。

 だが現実には、90年代半ば以降、北朝鮮の食糧供給には外国からの援助が不可欠になっている。今年も例外ではなく、国際社会は疲弊した国民を救うために、追加の資金を出して北朝鮮に食糧を送ることになる。

 だが長い目で見ると、こうした援助は変化の妨げになる。北朝鮮は経済政策の抜本的見直しを怠り、食糧生産は「お天気頼み」のままだろう。

 食糧不足の元凶は時代遅れの自給政策だ。市場経済がうまく機能し、貿易が自由な国であれば、干ばつが予想されたら食糧の輸入を増やせばいい。北朝鮮ではこれができない。

 確かに、経済体制の近代化や外資の誘致を試みたこともある。だが国境を開こうとはせず、モノと情報が自由に入ってくることを許そうとしない。だから安い労働力を武器に輸出産業を育て、稼いだ外貨で食糧を輸入することもできない。

 軍と党に君臨する金正恩(キム・ジョンウン)第1書記は時に経済自由化のそぶりを見せる一方で、国境を越えた密貿易の取り締まりに躍起になっている。「天災」と呼ばれるものの常として、北朝鮮を襲う干ばつや飢饉のほとんどは人災だ。それでも政府が安泰でいられるのは、情け深い国際社会の人道援助があるからだ。

From thediplomat.com

[2015年7月28日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国最大野党の李代表に逆転無罪判決、大統領選出馬に

ビジネス

独VWの筆頭株主ポルシェSE、投資先の多様化を検討

ビジネス

日産、25年度に新型EV「リーフ」投入 クロスオー

ビジネス

通商政策など不確実性高い、賃金・物価の好循環「ステ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取締役会はマスクCEOを辞めさせろ」
  • 4
    「トランプが変えた世界」を30年前に描いていた...あ…
  • 5
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 6
    トランプ批判で入国拒否も?...米空港で広がる「スマ…
  • 7
    「悪循環」中国の飲食店に大倒産時代が到来...デフレ…
  • 8
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 9
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 10
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 10
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中