最新記事

児童買春

カンボジア「小児性愛天国」の悪名返上か

取り締まり強化で欧米からの小児性愛者の検挙率は上がったが、もっと根深い問題が見えてきた

2010年11月17日(水)18時20分
ブレンダン・ブレイディ

消えない傷 15歳のときにロシア人ビジネスマンから性的虐待を受けた少女(右) Chor Sokunthea-Reuters

 この数カ月、カンボジアでは小児性愛者のニュースが紙面を賑わせている。少女17人(最年少は6歳だった)を買春したロシア人ビジネスマンは、刑期が17年から8年に短縮された。児童への性的虐待が疑われるスウェーデン人は母国メディアの取材に対し、カンボジアでは裁判官に賄賂を送って刑期を短縮させることがいかに簡単かを自慢げに語った。

 同じく子供への性犯罪で現在、裁判にかけられているイギリス人は、05年に類似の容疑で十分な証拠あったにもかかわらず無罪となった男だ。性懲りもなくカンボジアに舞い戻ってきたということは、入国禁止の処罰もなかったらしい。

 しかし、このような恥ずべき事態はこの数年で改善されつつある。時計の針を10年前に戻してみよう。イギリス人ロック歌手で小児性愛者のゲイリー・グリッターが、母国から逃げ出してカンボジアに移住してきた頃だ。彼以外にも外国人による小児性愛事件が目立っていた。こうしたことから、この東南アジアの貧しい国は「小児性愛者の格好の隠れ家」という悪名がついてまわるようになった。

 当時は首都プノンペンの一画で子供たちが堂々と売られていた。NGOによる児童買春宿の捜査活動も、賄賂を受け取っている汚職警官のせいで失敗に終わるのが常だった。手ぬるい法律と現地の男たちの執拗な需要もあって、東南アジアは長く買春目的の旅行先になっていた。特にカンボジアは、長年にわたる内戦で、児童買春を規制する社会経済的・法的な土壌がまったく育たなかった。

 しかしカンボジアは変わった。この国ではもはやグリッターのような男が何食わぬ顔で法を犯すことはできない。現地の活動家や欧米からの圧力を受けて、カンボジアは03年から取り締まりを強化し、その努力はさまざまな側面で成果を上げている。例えば、最近は欧米人の逮捕が地元の新聞で報じられる機会が多くなった。さらに米政府の人身売買監視国リストからも外され、おかげで国際援助を得られやすくなった。

取り締まりの網から漏れた地元民

「欧米の小児性愛者にとってカンボジアはもう安全な場所ではない」と、反小児性愛団体APLEのサムリーン・セイラ代表は言う。こうした変化は「わいせつ行為」で逮捕される人の増加にも表れている。APLEによれば、03年には8人だったのが昨年は36人に増えた。

 APLEは買春目的の旅行者を追跡し、買春の証拠を集めて地元警察に渡している。だが問題はここで行き詰まりやすいことだ。カンボジアの警察や裁判所は、経験が浅い人材も多く資金も不足しているため、汚職や職務怠慢に走りやすい。

 とはいえ、APLEによれば、こうした状況も改善されつつある。例えば、ある児童わいせつ行為事件を1年半前には「性行為に至らない愛撫」として審議を却下した裁判官が、今ではこの事件の審議に前向きだという。警察や司法に携わる人間が責任感を持ち始めている。

 警察機能の向上で、欧米の小児性愛者の手口は巧妙になった。最近、別々の事件で逮捕された2人のイギリス人は児童保護のNGOを設立して、これを隠れみのに子供たちに悪さをしていたと見られる。プノンペン警察の人身売買撲滅・児童保護課のカオ・テア課長は、このような詐欺行為に警察当局はだまされないと自信を見せる。

「われわれは外国人による性的虐待を止めることができる。以前よりずっと経験をつんでいるからだ」と、テアは言う。それは本当だろう。だが人権団体は、外国人以上に厄介な存在が取り締まりの網から漏れていると指摘する。それは、児童買春市場に群がる地元民、つまりカンボジア人だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ首都に大規模攻撃、米ロ首脳会談の数時間後

ワールド

中国、EU産ブランデーに関税 価格設定で合意した企

ビジネス

TSMC、米投資計画は既存計画に影響与えずと表明 

ワールド

OPECプラス有志国が5日に会合、日量41.1万バ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    「コメ4200円」は下がるのか? 小泉農水相への農政ト…
  • 10
    1000万人以上が医療保険を失う...トランプの「大きく…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 5
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 8
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 9
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中