最新記事

BOOKS

日本の女性を息苦しさから救った米国人料理家、日本で寿司に死す

2019年06月12日(水)11時35分
村井理子

写真:吉田貴洋(コルプ)

<前作『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』がベストセラーとなったキャスリーン・フリンが、日本を訪れ、寿司職人や築地の元競り人に習い、読者とキッチンに立ち、本を書いた。いったい何のために?>

ここ数年、日本で「家事としての料理」に頭を悩ませる人たちを中心に支持を集めている米国人料理家をご存じだろうか?

2017年に著書『The Kitchen Counter Cooking School: How a Few Simple Lessons Transformed Nine Culinary Novices into Fearless Home Cook』が邦訳『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』(きこ書房)として刊行され、たちまちベストセラーとなったジャーナリストで料理家のキャスリーン・フリンである。その彼女が、新作『サカナ・レッスン 美味しい日本で寿司に死す』(CCCメディアハウス)を上梓した(6月1日発売、いずれも筆者訳)。

『サカナ・レッスン』は翻訳書ではなく、日本オリジナルの企画だ。キャスリーンが今回、日本の読者に向けた作品を書き下ろしたのは、前作を読んだ人たちの声に応えたいという強い思いに衝き動かされたからだった。彼女と遠い日本の読者との間に心のつながりが生まれた瞬間の様子が、『サカナ・レッスン』には綴られている。


読者がハッシュタグを使って、料理に関する彼らの思い、経験談、そして写真を投稿してくれていた。焼き上がったパンやローストチキンの写真と一緒に喜びの感想をつぶやく人たちのタイムラインをわたしは見ていた。(中略)早朝六時、わたしはパソコンの前に座り込んで、感激のあまり涙を流していた。どうやってこの人たちにノーと言える? 言えるわけないでしょ。

ここに至るまでの彼女の話をしておこう。アメリカで最も愛された料理研究家といえばジュリア・チャイルド(1912-1994)である。その独特な語り口調と大胆な料理手法は、今でもアメリカ人から熱烈な支持を得ている。キャスリーンは長年にわたって、このジュリア・チャイルドを敬愛し、彼女の前向きな料理への姿勢を現代に継承しようと奮闘し続けてきた経緯がある。

多くの媒体に寄稿しながら、キャスリーンは料理を苦手とする人たちを対象とした料理教室を開催し、家庭の台所というきわめてプライベートな空間だからこそ露呈する個人の葛藤に寄り添ってきた。

ジュリア・チャイルドがパリの名門料理学校ル・コルドン・ブルーで料理を習いはじめたのは、彼女が32歳のときだった。一方、キャスリーンがそれまでのキャリアを捨て、単身パリに渡り、ル・コルドン・ブルーの門を叩いたのは彼女が36歳のときだ(その経験は、『36歳、名門料理学校に飛び込む!――リストラされた彼女の決断』〔柏書房、2012年〕に綴られている)。

パリから帰国後、シアトルとフロリダを行き来しながら、精力的に食と食文化について研究を重ねたキャスリーンは、その過程で数多くの料理界のセレブリティーと知り合うことになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ

RANKING

  • 1

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 2

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

  • 3

    「高慢な態度に失望」...エリザベス女王とヘンリー王…

  • 4

    なぜメーガン妃の靴は「ぶかぶか」なのか?...理由は…

  • 5

    エリザベス女王が「リリベット」に悲しみ、人生で最…

  • 1

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 2

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 3

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 4

    「私は妊娠した」ヤリたいだけの男もたくさんいる「…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 3

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 4

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 5

    【ヨルダン王室】世界がうっとり、ラジワ皇太子妃の…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:インドのヒント

特集:インドのヒント

2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり