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有機性廃棄物を「地域の資源」に変える――アサギリが築く地域循環共生圏の未来

2025年11月25日(火)11時00分
ニューズウィーク日本版編集部SDGs室 ブランドストーリー
有機性廃棄物を「地域の資源」に変える――アサギリが築く地域循環共生圏の未来

富士山麓に広がる地域循環共生圏。廃棄物の再資源化を通じて、地域の農業・環境・経済がつながる循環モデルを示している

<富士山麓で年間約4万9000トンの有機性廃棄物を受け入れ、堆肥として再資源化。地域循環の仕組みで農業と環境をつなぐ挑戦が注目を集めている>

日本企業のたとえ小さな取り組みであっても、メディアが広く伝えていけば、共感を生み、新たなアイデアにつながり、社会課題の解決に近づいていく──。そのような発信の場をつくることをミッションに、ニューズウィーク日本版が立ち上げた「SDGsアワード」は今年、3年目を迎えました。

私たちは今年も、日本企業によるSDGsの取り組みを積極的に情報発信していきます。

◇ ◇ ◇


「ただのゴミ」を堆肥に――循環を生む独自技術

株式会社アサギリは、山梨県にある肥料販売事業・山梨工場を拠点に、年間約4万9000トンにのぼる有機性廃棄物を受け入れ、堆肥として再資源化している。下水汚泥、食品残渣、畜ふんなど、これまで未利用資源とされてきた廃棄物をアップサイクルし、農業現場で活用できる高機能堆肥として生まれ変わらせる。廃棄物の削減だけでなく、地域農業や気候変動対策にも貢献する循環型事業だ。

同社の原点は、1965年に設立された酪農業「朝霧牧場」にさかのぼる。1988年に酪農を廃業した後、地域で発生するコーヒーカスや畜ふんを有効活用しようと、堆肥化に着手したのが始まりだった。1990年には有機性産業廃棄物の中間処理業に転換し、「迷惑な存在」とされてきた廃棄物を「地域を支える資源」に変える道を歩み始めた。

環境負荷の低減と持続可能な農業の両立を目指し、食料システムの各段階で、脱炭素や資源循環を実現する

環境負荷の低減と持続可能な農業の両立を目指し、食料システムの各段階で、脱炭素や資源循環を実現する


肥料販売事業・山梨工場の中井翔馬氏はこう語る。

「産業廃棄物処分業というと、どうしても『汚い』『臭い』というイメージを持たれがちです。でも、私たちはその印象を変えたかった。廃棄物を適正処理するだけでなく、地域に還元できる資源へと再生する。それが私たちの使命です」

その言葉の通り、同社では発酵・ペレット化・バイオ炭混合といった独自技術を組み合わせ、堆肥の機能性を飛躍的に高めてきた。散布性・保水性・炭素固定効果に優れ、農家からは「この資材じゃないと困る」との声も多い。

中井氏は印象に残った出来事として、地域住民の一言を挙げる。

「『昔はただのゴミだったものが、今は必要とされる堆肥になっているんですね』と言われたときは、本当に嬉しかったです。社会的な偏見を乗り越え、地域の役に立てている実感がありました」

100以上の関係者と広域連携、全国へ広げる輪

アサギリが特に力を入れているのは、地域内で資源と利益を循環させる「地域循環共生圏」の形成だ。静岡県富士宮市を中心に、自治体・企業・JA・農家など100以上の関係者と広域連携を進めており、堆肥の供給を通じて環境と農業の両立を支えている。

「地域の中で出たものを地域で活かす。それが、持続可能な社会の基本だと思います」(中井氏)

堆肥の改良にも余念がない。2000年代には牛ふんのペレット化を導入し、さらにバイオ炭を混合して炭素固定効果を高めた。炭素を土壌に固定することで温室効果ガスの排出抑制にも寄与しており、今後はJ-クレジット制度の活用を視野に入れる。J-クレジット制度は、再生可能エネルギーの活用や森林管理、土壌への炭素固定などにより削減・吸収された温室効果ガスの量を「クレジット」として認証し、取引可能にする国の仕組み。環境価値を定量化し、経済的価値としても評価される仕組みを目指すということだ。

有機性廃棄物から製造されるバイオ炭は、炭素を土壌に固定し、温室効果ガスの削減に寄与する

有機性廃棄物から製造されるバイオ炭は、炭素を土壌に固定し、温室効果ガスの削減に寄与する


こうした取り組みは、SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」、目標15「陸の豊かさも守ろう」、そして目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」と密接に関わっている。

特に気候変動が進むなかで、アサギリが製造する高機能堆肥は、農地の団粒構造形成や保水性の向上を通じて、異常気象に強い農業の基盤を支える役割を果たしている。

一方で、中井氏は課題も率直に語る。

「産業廃棄物処分場というと、いまだに迷惑施設という印象を持たれることがあります。だからこそ、臭気対策や品質向上に徹底的に取り組み、安心して使ってもらえる堆肥を作ることが重要です」

今後は、富士山麓を起点に構築した地域循環共生圏のモデルを全国へと広げる構想も進んでいる。

「日本各地で同じような地域循環を生み出せたら、廃棄物処理業は『持続可能な社会のエンジン』になれるはずです」(中井氏)

アサギリが歩んできた30年以上の道のりは、廃棄物を「不要なもの」から「地域の資源」へと転換してきた歴史そのものだ。今後も発酵技術の深化と地域連携を重ねながら、同社は「持続可能な社会を、足元の土から支える」企業として、確かな一歩を積み重ねていく。

◇ ◇ ◇


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