最新記事

欧州債務危機

欧州パパンドレウ・ショックの自業自得

EUとギリシャの包括合意で市場に安心感が流れた矢先、すべてを台無しにしたギリシャ首相「国民投票」発言の真意

2011年11月2日(水)15時08分
マイケル・ゴールドファーブ

寝耳に水 「ギリシャ国民投票」の衝撃は世界をめぐり、アメリカ株も270ドル以上下げた(11月1日) Brendan McDermid-Reuters

 あの徹夜の首脳会談は何だったのか──先週のユーロ首脳会談で合意されたギリシャ支援策について、ギリシャのヨルゴス・パパンドレウ首相が突然、受け入れを国民投票にかけると発表した。困惑したヨーロッパ市場は急落し、パリとフランクフルトの株式市場は1日、午前だけで平均5%値を下げた。

 パパンドレウはギリシャ議会で、次のように語った。「決定はギリシャ国民に委ねよう。手にした投票用紙で、国民1人1人に自分の国について決断を下してもらおう」

 だがパパンドレウは国民投票を見届ける前に首相の座から降ろされるかもしれない。国民投票案が発表された1日、首相が所属する与党・全ギリシャ社会主義運動(PASOK)の議員2人が離党した。これにより与党は、議会で過半数をわずか1議席上回るだけになった。さらにPASOKの議員6人は首相に辞任を要求。エバンゲロス・ベニゼロス財務相は腹痛で倒れ、病院に運び込まれた。1日夜には緊急閣議が開かれ、一部報道ではパパンドレウが辞任に追い込まれるのではないかとの観測まで出た。

 ヨーロッパが受けた衝撃は計り知れない。ギリシャの債務危機問題は先週、解決に向かう道筋が見えたかのように思われていたからだ。ギリシャ国債を保有する民間の金融機関は50%ヘアカット(額面の50%分の債権を放棄すること)に合意した。その代わりにパパンドレウは、公務員のリストラや年金支給額の削減など厳格な緊縮財政を今後も継続すると約束していた。

 先週の首脳会談を主導したフランスのニコラ・サルコジ大統領とドイツのアンゲラ・メルケル首相は、2日にフランスのカンヌで緊急会合を行う。その翌日には20ヵ国・地域(G20)首脳会議(金融サミット)の開催が迫っている。

 仏独の首脳会談もG20も、議論は混乱の中で行われるだろう。パパンドレウは国民投票の日程も、具体的にどんな質問を有権者に投げかけるのかも明らかにしていない。一方で英フィナンシャル・タイムズ紙はブログで、ギリシャの憲法が首相に国民投票を行う権限を付与しているのは、「財政に関するものではない」重要な事柄だと指摘する。

緊縮財政かユーロ圏離脱か

 パパンドレウは今週中に内閣の信任投票も行う考えを示した。これに対し、野党は右派左派を問わず非難の声をあげ、内閣総辞職と総選挙を今すぐに実施せよと求めている。次回の総選挙は2013年に予定されている。

 どうも国民投票の意味合いは支援を受けるかどうかより、ギリシャがユーロ圏の一員であり続けるべきかどうかを問うことにありそうだ。世論調査では、ギリシャ人の多くは支援を受ける代償としての厳しい緊縮財政に反対だとの結果が出ている。さらにギリシャ国民はユーロの一員であり続けたいとも希望している。

 しかし支援策を受け入れずにユーロの一員であり続けることはできない。だからパパンドレウは国民投票で、有権者に決断を迫ろうとしているのだろう。緊縮財政を受け入れるか、それが嫌ならユーロから抜けるか覚悟を決めろ、と。

 今回の混乱は、統一通貨が構想された20年前にそれを支える政治体制を確立しなかったツケが、今になって襲ってきたということでもある。いわゆる市民の政治参加が排除された「民主主義の赤字」という問題だ。これについてはパパンドレウも国民投票を発表した際に言及している。「決めるのは他の誰でもなくギリシャ国民だ。私たちは国民を信じている。私たちは市民の民主的な政治参加を恐れてはいない」

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 9
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中