最新記事

メルマガ限定ページ

CIAに潜む中国二重スパイ

2017年04月17日(月)18時30分

過去15年で中国はアメリカと肩を並べる強国に。胡錦濤訪問時のホワイトハウス(2011年) Andrew Harrer-Bloomberg/Getty Images

<生粋のアメリカ人をスパイに雇う中国の戦略で、疑心暗鬼と人材不足のダブルパンチを食らうCIA>

その男はCIAにうってつけの人材に見えた。

男の名はグレン・ダフィー・シュライバー。ミシガン州育ちの28歳で社交的、運動神経が良く、子供の頃から国際情勢や外国語に強い関心を持つ優秀な学生だった。それだけではない。中国に留学し、働いた経験もあり、標準的な中国語を完璧に操ることができた。

だが慎重に経歴調査を進めたところ、彼が中国から送り込まれた工作員である疑いが強まった。そしてポリグラフ(嘘発見器)を使った面接の段になると男はうろたえ、急に応募を取り下げた。その後、シュライバーは中国の手先となってCIAに潜入を試みた罪で逮捕され、禁錮4年の刑に服している。

もう7年も前の事件だが、CIAの内情に詳しいある情報源によると、シュライバー事件の余震は今も続いている。中国の諜報機関である国家安全省は従来、こうしたケースではもっぱら中国系アメリカ人を使ってきた。しかしシュライバー事件で、中国が生粋のアメリカ白人にまで触手を伸ばしていることが判明した。

この3月末にも国務省職員のキャンディス・マリー・クレイボーンが、中国のスパイと接触して見返りを受け取り、FBIに虚偽の説明をした容疑で逮捕されている。中国のスパイ攻勢に対するCIAの「被害妄想」(ある元職員の表現)が一段と強まるのは間違いない。

「1年か2年前、CIAが中国の諜報機関に送り込んでいた高位の情報源が次々と(中国で)身柄を拘束される事態があった」。米諜報部門の元高官は匿名を条件に、そう本誌に明かした。「それでCIAは内通者の存在に気付き、以後は人材採用に当たり非常に慎重になった」

mailmagSC170418-sub.jpg

CIAに応募し、スパイ容疑で逮捕されたシュライバー FBI

分析能力の低下リスク

こうした二重スパイの捜査は、防諜部門のごく少数の専門家によって行われてきた。「名誉毀損などの恐れがあるため、ひそかに水面下で調べていた」と、CIAの元高官は言う。

だが昨年までCIAの東アジア・太平洋地域担当副次長補だったデニス・ワイルダーによれば、シュライバー事件により二重スパイの疑いが強まったため「中国で学ぶアメリカ人学生が(国家安全省の)標的にされていることに、CIAは大きな懸念を抱くようになった」。そして今では「学生として中国にいた人物、特に長期留学者については従来になく徹底した調査が行われている」。

結果として、CIAでは最適な資質を持つ人材の採用が思うように進まず、中国の権力中枢で起きている事態を分析する能力が損なわれてしまった。

MAGAZINE
特集:生存戦略としてのSDGs
特集:生存戦略としてのSDGs
2024年4月 2日号(3/26発売)

サステナビリティーの大海に飛び込んだ企業の勝算を、経営学者・入山章栄とSDGs専門家・蟹江憲史が読み解く

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 3

    「私はさそり座の女...」アン・ハサウェイのゴスな大胆衣装にネット震撼

  • 4

    ウクライナは本当に負けてる? ロシアが犯した「5つ…

  • 5

    やり過ぎたイスラエル、守りきれなくなった米バイデ…

  • 6

    日本で車椅子利用者バッシングや悪質クレーマー呼ば…

  • 7

    日本製鉄によるUSスチールの買収・子会社化...「待っ…

  • 8

    車いすユーザーの声は「わがまま」なのか? 当事者に…

  • 9

    ISがモクスクワテロの犯行声明を出してもプーチンが…

  • 10

    大谷翔平の今後の課題は「英語とカネ」

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 3

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴を上げ、「見た瞬間に鳥肌!」 奇妙な生物の正体は?

  • 4

    ウクライナは本当に負けてる? ロシアが犯した「5つ…

  • 5

    日本製鉄によるUSスチールの買収・子会社化...「待っ…

  • 6

    クロスワードパズルの答えが「わからない」「難しす…

  • 7

    少女の髪の毛をかき分けると...もぞもぞ蠢く「シラミ…

  • 8

    ウクライナ軍のドローンに悩むロシア黒海艦隊...「地…

  • 9

    「私はさそり座の女...」アン・ハサウェイのゴスな大…

  • 10

    左右に並ぶ「2つの顔」を持って生まれたネコが注目を…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    「朝の歯磨きは食前・食後?」 歯科医師・医師が教える毎日の正しい歯磨き習慣で腸内環境も改善する

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    アウディーイウカ近郊の「地雷原」に突っ込んだロシ…

  • 5

    大阪万博、大丈夫?予言されていた「荒井注」化の危…

  • 6

    「完璧に保存された」ローマ文明以前の古代の墓...発…

  • 7

    野原に逃げ出す兵士たち、「鉄くず」と化す装甲車...…

  • 8

    『オッペンハイマー』日本配給を見送った老舗大手の…

  • 9

    健康長寿の一歩、年齢に負けず「長く続けるための」…

  • 10

    何をした? ロバート・ダウニー・Jr、助演男優賞で初…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中