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NY市長選、マムダニ氏当選でユダヤ系有権者に亀裂 共和党は支持拡大狙う

2025年11月11日(火)12時55分

 ニューヨーク市の次期市長にゾーラン・マムダニ氏が選出されたことで、伝統的な民主党支持のユダヤ系有権者と若い進歩派との間に深まる亀裂があらわになった。写真は6日、プエルトリコでのイベントで話すマムダニ氏。(2025年 ロイター/Ricardo Arduengo)

Helen Coster James Oliphant

[ニューヨーク 9日 ロイター] - ニューヨーク市の次期市長にゾーラン・マムダニ氏が選出されたことで、伝統的な民主党支持のユダヤ系有権者と若い進歩派との間に深まる亀裂があらわになった。イスラエル以外では最大のユダヤ人人口を抱えるニューヨークの政治構造を揺るがす可能性がある。

34歳の民主社会主義者であるマムダニ氏は、無所属で出馬したクオモ前ニューヨーク州知事を大差で破った。パレスチナ自治区ガザ紛争におけるパレスチナ支持の姿勢に対し反ユダヤ主義との批判も受けたが、これを退けた。

イスラム教徒で移民のマムダニ氏は、ガザでのイスラエルの軍事行動に対する一部民主党支持者やユダヤ系米国人の怒りの高まりを追い風にした。こうした層は当初イスラエルを支持していたが、次第に幻滅していった。この変化は昨年春のコロンビア大学での抗議活動にも表れ、マムダニ氏はこれを支持し、政治的にも恩恵を受けた。

ピュー・リサーチ・センターが昨年実施した調査によると、35歳未満のユダヤ系米国人のうち、イスラエルの戦争遂行を「容認できる」と答えたのは半数にとどまった。一方、50歳以上では68%が容認できると答えた。

出口調査では、ユダヤ系有権者のおよそ3分の1がマムダニ氏に投票したことが示されており、これが同氏の勝利を後押しした。これまで支持候補が敗れる経験の少なかったユダヤ系の人々は衝撃を受けた。

ユダヤ系非営利団体「UJAフェデレーション・オブ・ニューヨーク」の副会長ヒンディ・ププコ氏は「選挙の翌朝、多くのコミュニティーの人々が不安を抱えて目覚めた」と述べ、「マムダニ市長がどのように行動するのか、不透明感が強い」と語った。

マムダニ氏は当選直後に試練に直面した。ブルックリンのユダヤ系学校に反ユダヤ的な落書きがされた際、同氏はこれを非難。「市長として、ユダヤ人の隣人と共に反ユダヤ主義を根絶するために断固として行動する」とXに投稿した。

マムダニ氏のユダヤ系反対派は、同氏が「インティファーダをグローバル化せよ」というスローガンを非難しないことに懸念を示している。このフレーズはパレスチナ支持の合言葉だが、一部ではユダヤ人への暴力を扇動するものと解釈されている。ニューヨーク・タイムズ紙が7月に報じたところによると、マムダニ氏は指名後、ビジネスリーダーとの非公開会合で「自らはこのフレーズを使わず、他者にも使用を控えるよう促す」と述べたという。

同氏はまた、イスラエルに対する経済・文化的ボイコットを呼びかける「ボイコット、投資引き揚げ、制裁(BDS)運動」を支持している。

有力ユダヤ人団体、名誉毀損防止同盟(ADL)は先週、「マムダニ・モニター」を立ち上げ、同氏の人事や政策がユダヤ人コミュニティーに与える影響を監視すると発表。市民から反ユダヤ主義の事例を通報できるホットラインも設けた。

<ユダヤ票の争奪戦>

ガザでのイスラエルの行動をめぐり民主党が分裂する中、イスラエルのネタニヤフ首相を強く支持する共和党のトランプ大統領は、ユダヤ系有権者に対し、自身の共和党こそがより良い政党だと訴えている。

ただ、24年の大統領選では、トランプ氏の対立候補である民主党のカマラ・ハリス氏が白人のユダヤ系票の79%を獲得したとされる。

トランプ氏は4日、「マムダニ氏を支持したユダヤ人有権者は『愚か者』だ」と発言した。

共和党はマムダニ氏の当選を機に、来年の中間選挙でユダヤ系有権者を取り込むことを狙っている。議会の主導権が懸かる選挙で、ニューヨーク市北部のマイク・ローラー共和党下院議員の選挙区のような激戦区では、ユダヤ票が決定打となり得る。

共和党のストラテジスト、フォード・オコンネル氏は「マムダニ氏の官邸入りは、共和党の戦略を書き換える可能性がある。下院掌握を強めることができる」と述べた。

マムダニ氏は、来年のニューヨーク州知事選でも票を動かす要素になるとみられる。トランプ氏の側近であるステファニク下院議員は先週、共和党の州知事候補として出馬する意向を表明し、民主党のホークル州知事がマムダニ氏を支持したことを非難した。

マムダニ氏の選挙戦では、都市の高コストや生活費の高さが主要な争点となり、若い進歩派の支持を集めた。ADLのトップ、ジョナサン・グリーンブラット氏のような批判的な人々も、同氏の「生活費問題への執着」が勝因だったと認めている。

マムダニ氏を支持したユダヤ系有権者は、今回の選挙が「ユダヤ票が一枚岩ではない」ことを示したと語る。

イスラエル出身で選挙活動を手伝ったロニ・ザハビ・ブルナーさん(26)は「イスラエル・パレスチナ問題に関する彼の見解にもかかわらず、ではなく、むしろそれゆえにマムダニ氏を支持した」と語った。「ジェノサイドに反対することが、そんなにリスクのあることだとは思わない」。

一方、クオモ氏(67)に票を投じた人々は、同氏のイスラエル支持を評価していた。マンハッタンのアッパーイーストサイドに住むユダヤ系のアリソン・デブリンさん(50)は「落胆している。私はユダヤ人であることを公言しているし、シオニストでもある。だからとても不安だ」と語った。「これから何が起きるのか分からない。この街に住み続けるかどうかも分からない」。

市内の高等教育機関で働くコリン・グリーンブラットさん(27)は、マムダニ氏が「政治的に完全に一致していないユダヤ人も含め、幅広いユダヤ人コミュニティーに手を差し伸べようとしている姿勢」を評価した。

コリンさんは「ガザでの戦争は、ユダヤ人の政治意識に大きな変化をもたらした。今や、パレスチナ支持のユダヤ人もいれば、イスラエル支持のユダヤ人もいる。イスラエルと何の関係もないユダヤ人もいる」と語った。

ブルックリンのユダヤ教指導者(ラビ)、アンドリュー・カーン氏は、マムダニ氏が反ユダヤ主義と闘う姿勢を繰り返し表明しているとし、ADLのような団体が「ユダヤ人の恐怖を利用して監視を正当化し、分断を深めている」と批判した。

「彼の反ユダヤ主義との闘いが本物かどうか、まずは見極めるべきだ。そして、すべてのニューヨーカーの安全を守るために、コミュニティーを超えた連帯を築いていこう」とカーン氏は語った。

ロイター
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