焦点:日銀正常化にハードル、高市政権内に慎重論 今春利上げに陰りも
高市首相。2月18日、首相官邸で代表撮影。REUTERS
Takaya Yamaguchi Tamiyuki Kihara
[東京 19日 ロイター] - 金融政策の正常化をうかがう日銀に、政治という新たなハードルが立ちはだかっている。イラン情勢の悪化以前から、高市早苗政権内では利上げに伴う景気への影響を懸念する声が強い。日銀は、3月会合での利上げを見送ったが、強い経済実現に傾注する政権の姿勢は、4月の利上げ判断にも影を落としそうだ。
「もう指標じゃない、政治だ」。日銀の利上げ可否を巡り、政府関係者の1人はこう語る。
イラン情勢を巡っては、米国とイスラエルによるイラン域内への攻撃から2週間余りが経過しても、なお沈静化の兆しがみえない。原油高にとどまらず、有事のドル買いも併せて進み、一転して円売りが加速。円は、19日に一時1ドル=159円90銭前後と、2024年7月以来1年8カ月ぶりの円安水準を更新した。
「為替円安に伴って生じうる物価上昇リスクは認識している」と、別の政府関係者は語る。とはいえ、一筋縄でいかない背景にあるのが景気への影響だと、複数の関係者は口をそろえる。
ロシアがウクライナに侵攻した際にも原油高を招き、22年の貿易赤字は約20兆円に膨らんだ。今後の市況次第で同様に貿易赤字が膨らむことも予想され、「1回の利上げで(赤字拡大に伴う円安圧力を)吸収しきれるのか」(経済官庁幹部)との声もくすぶる。
<景気への配慮、揺るがず>
高市政権は、日銀が政策金利を0.75%に引き上げた25年12月には利上げ判断を許容した。12月会合に先立ち、首相は、周辺に対し「好きにして」と漏らしていたと、事情を知る関係者の1人は振り返る。
ただ、景気への配慮を求める高市首相の意向は、イラン情勢の悪化以前から揺るぎないという。
昨年11月に、高市政権として初めて策定した経済対策では、「今後の強い経済成長と物価安定の両立に向けて、適切な金融政策運営が行われることが非常に重要」と明記。物価安定とともに、強い経済の実現という、デュアルマンデートを強く求めた。マクロ政策の礎となる新たな経済財政運営の指針(骨太方針)でも、こうした考えが追記される公算が大きい。
さらに、イラン情勢の悪化に先立つ日銀審議委員人事案では、任期を迎える2候補ともリフレ派で固めた。両氏のうち、浅田統一郎・中央大学名誉教授は安倍晋三元首相が掲げたアベノミクス政策以前から大胆な金融緩和を主張し、論拠を学術的に支えてきたとされる。
今回の人選には「これ以上、利上げすればデフレに逆戻りする」(前出とさらに別の関係者)という、首相自身の警戒感も透ける。
<物価高には財政で対応か>
高市首相は、世界に先駆けて石油の国家備蓄放出に打って出た。同時に、原油高騰対策としてガソリン補助を拡充。レギュラーガソリン1リットル当たりの全国平均価格を170円程度に抑えることを視野に入れる。
首相は、3日の衆院予算委員会で、紛争が長期化して緊要性があれば、26年度補正予算の編成についても「可能性としてはゼロではない」と述べた。本予算審議中に補正に言及するのは異例で、「物価上昇圧力には財政で対処する」(前出の経済官庁幹部)との決意もにじむ。
日銀の追加利上げを巡り、冒頭の政府関係者は、今後のイラン情勢次第と断ったうえで「(4月も)容認しない可能性がある」と語る。景気停滞と物価高が併存するスタグフレーションをどう回避するかは今後、難路を迎える。
木原稔官房長官は19日の記者会見で、ロイターの質問に対し、日銀の利上げ判断について「政府としてあらかじめ何か申し上げることや、利上げした場合を含め、金融政策に関する日銀の決定が物価に与える影響について、政府として答えることは差し控える」と述べた。
一方、金融政策の具体的手法については日銀に委ねられるべきとの考えも重ねて示し、「現下のイラン情勢などを踏まえても変わりはない」としている。
(山口貴也、鬼原民幸 編集:橋本浩)





