コラム

人々はレガシーシステムからの「分散ドロップアウト」を望んでいる

2021年08月24日(火)18時20分

「消費することはあなたを消費する」と主張する反消費主義のスプレー・アート。Photo by Edgar Fabiano

<終わりなき成長に基づく資本主義への絶え間ない叫びは、ますます現実を直視するようになっている...... >

フェイスブックとVR

フェイスブックの創業者兼CEOであるマーク・ザッカーバーグは、2016年から創設されたベルリンのアクセル・シュプリンガー賞の最初の受賞者だった。ベルリンに本社を構えるアクセル・シュプリンガーは、ドイツ最大の新聞・雑誌・出版コングロマリットである。

この賞は、イノヴェーションのための卓越した才能を示し、市場を創造、変革し、文化の形成や社会的責任にも直面している優れた起業家の個性に与えられる。さらに受賞者の業績を評価し、それらを発展させることを奨励している。

アクセル・シュプリンガーのCEOであるマティアス・デプフナーは、マーク・ザッカーバーグに賞を授与する理由について、次のように述べていた。

「彼はフェイスブックによって、最も重要なコミュニケーション・メディアを創造したからです。フェイスブックは、私たちの文化を変え、豊かにすると同時に、新たな課題をもたらしました。誰もが、いつでも、好きなことを、多くの人に伝えることができます。しかし、この力をどのように責任を持って使えばよいのでしょうか。マーク・ザッカーバーグは、この問題に集中的に取り組んでいます。この賞の目的は、マークがどんな批判を受けようとも、その道を歩み続けることを奨励するためなのです」

takemura20210824_1.jpg

アクセル・シュプリンガー賞授賞式でのマーク・ザッカーバーグ夫妻(中央)©Axel Springer

VR遠足の意味

2016年2月25日の受賞式で、ザッカーバーグは2014年にフェイスブックが買収したヴァーチュアル・リアリティ(VR)企業「Oculus(オキュラス)」のヘッドセットを用意し、授賞式の参加者と「VR遠足」と題するデモンストレーションを行った。当時EUでは、GDPR(一般データ保護規則)が発効直前で、シリコンバレーのビッグテックへの批判が最高潮に達していた。VR遠足は、フェイスブックに向けられたプライバシー保護をめぐる批判の高まりを一時忘れ、VR世界での人々の交流の可能性を告げるイベントだった。

takemura20210824_3.jpg

授賞式参加者によるVR遠足の風景 ©Axel Springer

それから6年が過ぎたが、VRは一般の生活者に受け入れられてはいない。誰もがオキュラスのVRゴーグルを購入し、VR世界に没入するというフェイスブックの目論見は未だに実現していない。しかし、フェイスブックはVRという言葉を「メタバース」に変え、未だに仮想的世界が実世界とミラーワールドになることをあきらめているわけではない。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ブラックロック、AI投資で米長期国債に弱気 日本国

ビジネス

OECD、今年の主要国成長見通し上方修正 AI投資

ビジネス

ユーロ圏消費者物価、11月は前年比+2.2%加速 

ワールド

インドのロシア産石油輸入、減少は短期間にとどまる可
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カ…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 8
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 9
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story