最新記事
ウクライナ戦争

携帯式地対空ミサイル「スティンガー」の不足がウクライナ軍反攻の足を引っ張り始めた。アメリカでは増産のため70代の元従業員も駆り出す事態に

U.S. Retirees Called In To Make Stinger Missiles in Boost for Ukraine

2023年7月4日(火)20時59分
ブレンダン・コール

前線で守りの中核になった携帯式地対空ミサイル「スティンガー」を構えるウクライナ兵(ミコライウ、2022年8月11日) Anna Kudriavtseva-REUTERS

<ローテクで地味なスティンガーがこの戦争では前線の防衛の要になっている。スティンガー不足の前線は優位な立場を失いつつある>

<動画>ロシアが誇る「空飛ぶ戦車」

ウクライナ軍がロシア軍と戦う上で強力な武器となっているアメリカの携帯式地対空ミサイル、スティンガー。報道によれば、製造元の米レイセオンではウクライナにスティンガーを送るため、引退した技術者たちまで駆り出して増産しているという。

正式名称「FIM-92スティンガー」を、アメリカはこれまでに2000基近くウクライナに供与してきた。スティンガーはロシア軍機、とくに攻撃ヘリの撃墜に大きな成果を上げており、米バイデン政権は6月、追加供与の方針を明らかにした。

スティンガーミサイルの援護があれば、地上部隊は航空機の支援がなくても、敵の航空機を撃ち落とすことができる。

スティンガーの製造が始まったのは1978年。それ以降、幾度となく改良が重ねられてきた。古い武器なので、増産が決まったからといって3Dプリンターで量産できるようなパーツはない。

要するに、スティンガーの製造は40年前と同じ方法でやらなければならない。「70歳代の元従業員たちを呼び戻している」とレイセオン・テクノロジーズのミサイル防衛部門の責任者であるウェス・クレマーは述べた。何十年も前の設計図を使ってミサイルを作っていた人々だ。

追加供与が決まったとは言え、3Dプリンターを使って量産というわけにはいかない。そうするには再設計が必要になり、認可を受けるのに長い時間がかかってしまう。

「倉庫から試験装置を引っ張り出して、クモの巣を払った」とクレマーは言う。一部の構成部品は再設計した。使われていた電子機器が時代遅れになっていたからだ。

軍事アナリストのアラン・オアは本誌に対し、「(ウクライナの)スティンガーは明らかに底をついており、ロシアもそれを分かっている」と語った。

反攻の中核

スティンガーの不足はウクライナの反攻の足かせになっている、とオアは言う。空からの攻撃を防ぐ手段なしに、ウクライナ軍は「ロシアの地雷や砲撃をくぐり抜けることができない」。

「スティンガーがなければ戦況は悪化し、部隊はロシアの攻撃ヘリの遠隔攻撃のいい標的になってしまう」と彼は述べた。

「もともとスティンガーは(対戦車ミサイルの)ジャベリンと違い、第一線の防衛の中核となる兵器ではなかった。だが(現実には)疑いなくそうなっている。今や反攻の中核だ」とオアは言う。

「スティンガーはローテクで地味だが、ウクライナ軍が優勢になるためのカギになっている。そして各地の前線でその有利な立場を手放しつつある。その結果を、われわれは目のあたりにしている」

SDGs
使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが「竹建築」の可能性に挑む理由
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、貿易協定後も「10%関税維持」 条件提

ワールド

ロシア、30日間停戦を支持 「ニュアンス」が考慮さ

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円・ユーロで週間上昇へ 貿易

ビジネス

米国株式市場=米中協議控え小動き、トランプ氏の関税
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノーパンツルックで美脚解放も「普段着」「手抜き」と酷評
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 5
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 6
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 7
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 8
    「金ぴか時代」の王を目指すトランプの下、ホワイト…
  • 9
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 10
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 10
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中