最新記事
難民

入管を責め難民を拒む矛盾...入管法改正問題の根本は「国民自身」にある

Facing the Consequences

2023年6月20日(火)13時40分
石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー、イラン出身)
入管法

yoshi0511-Shutterstock

<国民の議論を二分する入管法改正問題の根本は、難民条約を批准しながら議論を先延ばしにしてきた国民自身にある>

6月9日、改正入管難民法が国会で成立した。3回目以降の難民認定申請者が強制送還の対象となることから、メディアではこの法律が人権無視につながると懸念されている。また、参院法務委員会で採決時の混乱もあったため、世間の印象は非常に悪い。だが私は入管だけが悪者にされる世論には首を傾げてしまう。

日本が1981年に難民の地位に関する条約(以下「難民条約」)を批准してから40年がたっている。だが日本で難民が認定される割合は諸外国よりもかなり低いことは、ここ最近の改正入管難民法のニュースで一般に広く知られることとなった。

なぜこんなにも低いのか、入管当局が非人道的だからではないのか、という話の流れになることが多いが、私自身は入管のせい「だけ」にすることは考えものだと思う。ビザの更新のため行かないとならないので、入管は在日外国人にとっては善くも悪くも身近な存在だが、日本人はどのくらい入管のことを知っているのだろうか。

入管とは以前は入国管理局という法務局の内部部局だったが、現在の正式名称は出入国在留管理庁で、法務省の外局である。収容された外国人は2019年までの数年は年間1000人を超え、長期収容も問題とされてきた(コロナ禍以降は一時的に激減)。

収容された外国人の死亡事件が相次ぎ、現在とてもネガティブな印象を持たれていることは周知のとおりだ。21年に名古屋入管の収容施設でスリランカ人のウィシュマさんが亡くなるまでの経緯が遺族と弁護士によって明らかにされたが、確かに人道的とは言えない、厳格すぎる扱いがされているように思える。

そして最近は長期収容の是正が目的だという入管難民法の改正への大きな反対デモが続いた。だが14年に収容中のカメルーン人男性が適切な医療を受けられず死亡したことなど、以前から入管の人権侵害は報道されてきた。それなのに国民の多くはずっと変わらず、この仕組みを維持し続けている与党を選び続けているのだ。

収容者の扱いだけではない。難民認定においても、日本は非常に厳格だ。皆さんは、今年3月に出入国在留管理庁がホームページで掲載した、「難民該当性判断の手引」を読んだことがあるだろうか。これは、難民条約を細かく読み込み、その一字一句を解説し、難民かどうかを判断するためのガイドである。全27ページのこの手引を頭に入れて審査することは、厳格にやろうとするほど迷いも多く、時間もかかり、認定は進まないだろうと思われる。

展覧会
「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) 鑑賞チケット5組10名様プレゼント
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米百貨店コールズ、通期利益見通し引き上げ 株価は一

ワールド

ウクライナ首席補佐官、リヤド訪問 和平道筋でサウジ

ワールド

トランプ政権、学生や報道関係者のビザ有効期間を厳格

ワールド

イスラエル軍、ガザ南部に2支援拠点追加 制圧後の住
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    「どんな知能してるんだ」「自分の家かよ...」屋内に侵入してきたクマが見せた「目を疑う行動」にネット戦慄
  • 3
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪悪感も中毒も断ち切る「2つの習慣」
  • 4
    【クイズ】1位はアメリカ...稼働中の「原子力発電所…
  • 5
    「ガソリンスタンドに行列」...ウクライナの反撃が「…
  • 6
    「1日1万歩」より効く!? 海外SNSで話題、日本発・新…
  • 7
    イタリアの「オーバーツーリズム」が止まらない...草…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    「美しく、恐ろしい...」アメリカを襲った大型ハリケ…
  • 10
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 9
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 10
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中