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アルツハイマー病

「鼻をほじるとアルツハイマー病のリスクを高める...」研究結果発表される

2022年11月9日(水)17時00分
松岡由希子

「鼻の粘膜を傷つけると、脳に侵入する細菌が増えるおそれがある」という...... ridvan_celik-iStock

<豪グリフィス大学の研究によって、肺炎クラミジアがマウスの鼻から直接脳に侵入し、アルツハイマー病のような病状を引き起こすおそれがあることが明らかとなった......>

ヒトに感染して肺炎を引き起こす「肺炎クラミジア」は、晩発性アルツハイマー型認知症患者の脳内で見られ、「この細菌への感染が晩発性アルツハイマー型認知症の危険因子のひとつではないか」と考えられてきた。このほど、肺炎クラミジアがマウスの鼻から直接脳に侵入し、アルツハイマー病のような病状を引き起こすおそれがあることが明らかとなった。

肺炎クラミジアが鼻腔から72時間で脳に感染

豪グリフィス大学の研究チームは、雌マウスの鼻孔に肺炎クラミジアを接種した後、1日目、3日目、7日目、28日目に脳や嗅粘膜、嗅球などの組織を採取して組織学的に観察した。その研究成果は2022年2月17日付の学術雑誌「サイエンティフィック・リポーツ」に掲載されている。

このマウス実験では、肺炎クラミジアが鼻腔と脳の間に伸びる神経を用いて中枢神経系に侵入し、わずか72時間以内に嗅神経、三叉神経、嗅球、脳に感染したことが示された。鼻の嗅神経は、直接空気に触れ、血液脳関門を避けて直接脳につながる経路を提供している。この経路はウイルスや細菌にとって脳に侵入しやすい近道だ。

また、肺炎クラミジアの接種後7日目と28日目には、アルツハイマー病の発症に関わる主要な神経経路で調整異常がみられ、アルツハイマー病の特徴であるアミロイドベータの蓄積も検出された。

Cpn-in-brain-with-beta-amyloid-peptide-resized.jpgマウスの脳内にあるクラミジア肺炎菌 (緑) は、アルツハイマー病の特徴的な問題のアミロイドβペプチド (赤) に囲まれている。Griffith UNIVERSITY


「鼻の粘膜を傷つけると、脳に侵入する細菌が増えるおそれがある」

研究チームでは、今後、ヒトにもマウスと同じ経路が存在するのかどうか、さらなる研究をすすめる方針だ。研究論文の共同著者でグリフィス大学のジェームズ・セントジョン教授は「これまでに肺炎クラミジアがヒトの脳にも存在することはわかっているが、どのようにして脳に到達したのかはまだ解明されていない」とし、「この研究をヒトでも行い、マウスと同じ経路で同じように働いているのか、確認する必要がある」と述べている。

また、ジェームズ・セントジョン教授はこのような研究成果を踏まえ、「鼻の粘膜を傷つけると、脳に侵入する細菌が増えるおそれがある」とし、「鼻をほじったり、鼻毛を抜いたりすることは、鼻の中を傷つけることになり、好ましくない」と注意を促している。

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