最新記事

北朝鮮の飢きんが生んだ「人造肉」 闇市と人民の工夫がつなぐ命

2017年11月9日(木)16時45分

11月3日、北朝鮮では長いあいだ、「インジョコギ」と呼ばれる人造肉が人々の命をつないできた。写真はインジョコギにコメを詰めた料理。ソウルで9月撮影(2017年 ロイター/Kim Hong-Ji/Illustration)

北朝鮮では長いあいだ、「インジョコギ」と呼ばれる人造肉が人々の命をつないできた。通常は豚の餌となる大豆油の絞りカスを平たく伸ばし、黄土色の帯状にされたものだ。そのなかにコメを詰めて、チリソースをかける。

現在では、インジョコギは屋台で人気の食べ物となっており、「ジャンマダン」と呼ばれる半合法的な闇市場で他のモノやサービスと共に売られている。

脱北者によれば、このような市場は同国に数多く存在する。インジョコギのような食べ物の非公式売買からは、長引く孤立や虐待、制裁によって疲弊した北朝鮮を支える「物々交換経済」の実態が垣間見える。

「昔は、肉の代わりにインジョコギで腹を満たしたものだ」と、2014年に韓国に脱北したCho Ui-sungさんは話す。「今では、味がおいしいと食べられている」

ソ連の支援を受けて社会主義国家として誕生した北朝鮮だが、1991年のソ連崩壊によって経済は麻痺し、中央集権的な公的配給制度(PDS)も停止に追い込まれた。それにより、300万人が命を落としたとされる。

生き残った人々は手当たり次第、食糧を見つけ出し、物々交換し、新たな料理を考案することを余儀なくされた。市民が自ら率先して行動するようになり、食べ物や衣服など基本的な生活必需品を得る手段として、多くが個人取引を行うようになったと、さまざまな研究が示している。

非公式市場の普及はまた、北朝鮮経済の正確な把握を困難にしている。したがって、制裁が一般市民にどれくらい悪影響を与えているのか知ることは難しい。北朝鮮の食糧品輸入は制裁の対象外となっている。

北朝鮮政府は、制裁によって同国の子どもたちの命が危険にさらされていると主張する。今年はトウモロコシが不作だったため、地方では食糧不足に陥っていると、脱北者らは語る。支援団体はこうした状況を把握できずにいる。

北朝鮮は、国民の7割が主な食糧源としていまだに国家配給システムを使用しているとしている一方で、国連は同じく7割の北朝鮮国民が「食糧不足」に陥っていると予測している。

しかし各調査や脱北者の証言は、大半の北朝鮮人にとって、民間市場が主な供給源となっていることを示している。

国連の世界食糧計画(WFP)や食糧農業機関(FAO)によれば、必要とされる以上の食糧が北朝鮮に届けられている兆しはないという。「主な問題は、主食がコメかトウモロコシ、キムチと味噌といった変化に乏しい食事には、必要不可欠な脂肪やタンパク質が不足していることだ」と、これら機関は声明で指摘している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米イラン協議、6日にオマーンで開催 核問題中心に討

ワールド

米政権、ミネソタ州派遣の移民職員700人削減へ=国

ビジネス

米財務省が1250億ドルの借り換え発表、入札規模は

ビジネス

米1月ISM非製造業指数、53.8と横ばい 投入コ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 3
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流していた? 首相の辞任にも関与していた可能性も
  • 4
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 5
    トランプ不信から中国に接近した欧州外交の誤算
  • 6
    アジアから消えるアメリカ...中国の威圧に沈黙し、同…
  • 7
    電気代が下がらない本当の理由――「窓と給湯器」で家…
  • 8
    戦争の瀬戸際の米国とイラン、トランプがまだ引き金…
  • 9
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 10
    最長45日も潜伏か...世界が警戒する「ニパウイルス」…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 5
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 6
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中