最新記事

中国政治

習近平と李克強の権力闘争はあるのか?Part 2――共青団との闘いの巻

2016年10月20日(木)18時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

全人代開幕式を終えて席を立った習近平と李克強(2016年3月5日) Jason Lee-REUTERS

 習近平と李克強の間の権力闘争に関する第二弾として、今回は習近平が李克強の権力を削ぐために共青団(中国共産主義青年団)を弱体化させようとしているという報道に関して考察する。

【参考記事】習近平と李克強の権力闘争はあるのか?――論点はマクロ経済戦略

習近平が共青団を狙い撃ちしているという報道に関して

 胡錦濤時代に中共中央書記処書記兼中共中央弁公庁主任として、胡錦濤の最も身近で仕事をしていた令計画が2015年1月7日に逮捕されたのをきっかけに、「習近平がついに共青団の弱体化に手を付け始めた」という報道が散見される。

 これはとんでもない誤解で、腐敗撲滅に関しては、実は胡錦濤政権時代からあり、2003年に「中央紀律検査委員会 中央組織部」なる「巡視組」を設立させて、なんとか腐敗分子を摘発しようと試みていた。

 しかし胡錦濤時代の中共中央政治局常務委員(チャイナ・ナイン)は、胡錦濤派(胡錦濤を支持する者)3人に対して江沢民派6人。多数決議決で何をしようとしても「政治が中南海を出ることができない」状態だった。なぜなら腐敗の総本山は江沢民だからだ。

 2009年に「中央巡視組」と改名したが、それでも江沢民派に抑えつけられていた。

 ところが習近平政権(チャイナ・セブン)になってから、事態は一変した。

 そもそも習近平自身が江沢民の推薦によって2007年に国家副主席になっていたことから、江沢民としては習近平を抑えつける手段が困難となった。

 一方、腐敗がここまで蔓延したのでは、一党支配体制はこのままでは崩壊することを、チャイナ・セブンの誰もが認識していたので、中共中央紀律検査委員会の力を強化し、王岐山を書記として「中共中央巡視工作領導小組」の調査に基づき、腐敗撲滅に向かって猛進し始めた。

 そのために「第一輪 巡視」「第二輪 巡視」「第三輪 巡視」......といった感じで、全国の大手国有企業だけでなく、教育部とか中国社会科学院あるいは新華社に至るまで、全ての国家組織が調査の対象となったのである。

 その数は大きく分ければ百を超しており、小さく分類すれば何百にも及び、ようやく順番として共青団も対象となっただけのことだ。

 現在、中国共産党員の数は2015年末統計で8779.3万人。

 共青団団員の数も、2015年末統計で8746.1万人。

 共青団員はやがて、ほぼ全員が中国共産党員となる。いわば共産党員予備軍である。なんとしても一党支配体制を維持したい習近平政権にとって、党員の予備軍である共青団を大事にしていかなければ、政権基盤は弱体化する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中