悪癖の原因は「意志の弱さ」ではない──脳の仕組みを知って悪習慣ループを脱出せよ

HOW TO BREAK THE HABIT LOOP

2023年3月23日(木)11時40分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

習慣を変える最も直接的で効果的な方法は、意識的な思考を変えたり規制したりすることではなく、環境を変え、習慣化を招くキューを除くことだとウッドは言う。キューがなければ、無意識の習慣の連鎖が引き起こされることはない。

よくある例を挙げよう。多くの人が無意識にスマホを手に取り、メールをチェックする習慣を身に付けている。「目の前にスマホがある」「着信音が聞こえる」などがキューとなっている。それで私たちは無意識のうちにスマホを手に取り、気が付くとネット上のニュースや偽情報を読みふけっている。

今度旅行に行くときは、スマホを目に入らない場所にしまってみよう。キューがなければ、スマホをチェックしたいとも思わないはずだ。難しいことではない。それが難しいと思うのは、多くの人が習慣と依存症を混同していて、スマホがないと禁断症状が出ると誤解しているからだ。

だが(たいていは)そんなことはない。人はスマホをチェックする「必要」も欲求もないとウッドは指摘する。ただ習慣化しているだけだ。

習慣のきっかけとなるものをコントロールすれば悪習を断ち切れるというシンプルな考えは、公益にも意義をもたらし得る。ウッドらは、この方法がSNSで偽情報がシェアされる問題の解決にもなると考える。

ウッドらの研究チームは、フェイスブックのアクティブユーザー数千人に着目。研究協力者に、情報をシェアする頻度と、シェアするまでにどの程度考えたかについてアンケートを実施。その結果、情報をあまりシェアしない人は、頻繁にシェアする人に比べて、情報の内容を4倍近く吟味していることが分かった。

さらに、情報を習慣的にシェアする人(研究対象のアクティブな投稿者の上位15%)は、この研究で拡散された偽情報の37%に関与していた。情報をよくシェアしている人が提示された偽情報コンテンツの26%を拡散していたのに対し、慎重な人は約3%にとどまった。

偽情報の拡散を阻止するには、ユーザーが反射的にシェアしないよう、SNS運営会社がニュースに関する視覚的なキューを変更する必要があるとウッドらは論じている。フェイスブックでは一般に、ニュースコンテンツの投稿記事には写真と見出しがあり、その下にシェアを示す矢印があり、シェアを促すようにデザインされている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日本との関税協議「率直かつ建設的」、米財務省が声明

ワールド

アングル:留学生に広がる不安、ビザ取り消しに直面す

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単に作れる...カギを握る「2時間」の使い方
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 6
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 7
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 10
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中