コラム

アメリカの新たな罵り言葉「WOKE」とは? ビッグバードが批判された理由(パックン)

2021年11月23日(火)12時58分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)
ビッグバード(風刺画)

©2021 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<新型コロナとワクチンをめぐって分裂する保守派とリベラル派。NFL選手とビッグバードの相反するメッセージがアメリカで話題に>

アメリカでけなし文句に使われる超汚い単語はよくfour-letter word(4文字の単語)と記される。ニューズウィークのような上品な媒体に書いてはいけないので、F***KとかSH*Tのように表記され、読む人の想像に任される。僕はこれらを見ると、罪のないFORK(フォーク)とかSHOT(ショット)も巻き込まれてかわいそうだと思うけど......。

最近、けなし文句としてはやっている4文字の単語といったらWOKEだ。直訳すると「目覚めた」という意味だが、環境問題、社会問題などに配慮する「意識高い」人を指すスラングとして使われる。

そして不思議なことに、保守派はこれを罵るための単語にも使っている。こうした用例は他にもある。例えば、本来は褒め言葉なのに今やエリート!リベラル! WOKE! と重ねれば、右派の間では最上級の罵詈雑言となる。

自身を批判する人をWOKEと呼んだNFL選手

漫画でこれを叫んでいるのはアメフトの人気選手アーロン・ロジャース。ワクチンを接種していないにもかかわらず、独自の「免疫付与法」で免疫ができたと話していた彼は案の定、新型コロナウイルスに感染してしまった。

その後、ラジオ番組でワクチンは不妊症になるなどの根拠のない陰謀論を繰り広げ、コロナへの治療効果が認められていない薬を服用していると話すなど、非科学的な主張を繰り返した。

当然それを批判する人も多かったが、ロジャースはそうした人たちをWOKE MOB(意識高い系の暴徒)と片付けた。風刺画では、同じセリフを人気教育番組『セサミストリート』の人気キャラクター、ビッグバードに対して吐いている。

最近ビッグバードは「今日コロナワクチンを接種した!」とツイッターに投稿したことで話題になっている。これをテッド・クルーズ上院議員は子供を狙った「政府のプロパガンダ」だと批判するなど、保守派からは攻撃が集中した。

ロジャースとビッグバードは直接対決しているわけではないが、国民に見せている両者の姿は対照的だ。スポーツ選手であっても架空のキャラクターであっても、影響力を持つ立場にいるので、子供やファンにとってのrole model(お手本となる存在)であることを忘れず行動しないといけない(芸人コラムニストは免除してほしいけど)。

そう伝える素晴らしい風刺画だ。が、問題が1つある。「翼が少し痛むけど、これで自分と周りを守る免疫力が上がる!」とツイートしたビッグバードは、ばんそうこうを右の翼に貼っている。これは違うな。右翼はワクチンを打たないからね。

ポイント

IT'S ABOUT BEING A GOOD ROLE MODEL FOR THE KIDS...RIGHT, AARON?

子供たちの手本になることが重要なんだ...そうだよね、アーロン?

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イランのライシ大統領と外相が死亡と当局者、ヘリ墜落

ワールド

頼清徳氏、台湾新総統に就任 中国メディアは「挑発的

ワールド

ニューカレドニアの観光客救出、豪・NZが輸送機派遣

ワールド

イランのライシ大統領、生存は絶望的に 墜落ヘリ残骸
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 7

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 8

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 9

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story