コラム

東京五輪の観戦客には中継映像の「おもてなし」を

2016年08月23日(火)17時00分

Stoyan Nenov-REUTERS

<アメリカのテレビ局のリオ五輪中継は、露骨な「アメリカ中心」編成。放映権の関係等でこれは日本も同様だが、4年後の東京五輪では、外国から来た観戦客が自国選手の活躍を映像で視聴できるように配慮できないのか>(閉会式に登場したマリオに扮した安倍首相)

 リオ五輪は無事に終わりました。閉会式は米NBCのプライムタイム放映で見ていましたが、「東京2020」のPVと、安倍首相のマリオは大変に好評でした。特にマリオは大受けでしたが、予告編でここまでやってしまうと実際の2020年の開会式でネタが尽きないか、個人的にはちょっと心配になりました。

 ところで、アメリカで五輪の中継を見ると、色々と困難が伴います。と言うのは、NBC系列が完全に独占権を持ち、「圧倒的にアメリカ選手中心の編集」になっているからです。

 この点では、北京五輪の頃までは「ドラマ性のショーアップ」という演出の方針があったようで、アメリカの選手が有望な種目に関しては、ライバルになる外国の選手も熱心に取材して、「生い立ちや苦労話」などの感動エピソードを入れていたように思います。結果的にアメリカが勝ったにしても、ライバルに関する情報量も提供しているので、より勝負の妙味が出てくるという演出でした。

【参考記事】五輪開催コストは当初予算の「5割増し」が平均額

 ところが、リーマン・ショック以降は「放映権料だけでアップアップ」なのか、そうした「ライバルの感動エピソード」はなくなり、特に今回は「露骨なまでにアメリカ中心」になっていました。リアルタイム中継はネットだけにして、「ネタバレ」を極端に抑え、プライムタイムの総集編で視聴率を稼ぐという宿命が課せられている中で、どうしても自国中心の構成になったようです。

 ですから、NBCの地上波だけを見ていると、ほとんど日本選手は映らないことになってしまいます。

 アメリカでも日本発の「TVジャパン」という衛星局が見られるのですが、こちらはどうかというと、アナウンスや解説をつけた日本選手の活躍の映像どころか、ニュース枠の中での五輪競技の扱いも基本的にダメということになっています。

 つまり、日本で高視聴率を取っている中継映像は一切ダメで、NHKの河野憲治さんがやっている「ニュースウォッチ9」なども、五輪期間中は「リアルタイム放映」ができなくなり「一時間遅れ」となって、しかも五輪に関するニュースは全部カットという編集で放送されるのです。お好み焼きで言えば、具材の肉や海鮮を取り除いたものを食べさせられるような趣向で、まったくの興ざめです。

 もちろん、NHKを恨んでもどうしようもなく、とにかく五輪の放映権というのは「日本国内限定」でしか買っていないので、他国では流せません。これは予選段階からそうで、少しでも五輪に関連したニュースになると、まるで検閲でも受けたように静止画になるのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

仏エルメス、第1四半期は17%増収 中国好調

ワールド

ロシア凍結資産の利息でウクライナ支援、米提案をG7

ビジネス

北京モーターショー開幕、NEV一色 国内設計のAD

ビジネス

新藤経済財政相、あすの日銀決定会合に出席=内閣府
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story