コラム

「逃げろ」「叫べ」で子供は守れない...日本の防犯教育に見る致命的な盲点

2026年03月13日(金)10時40分

さらに、前述した「いかのおすし」という標語も、有効性には疑問が残る。多くの子供が言葉自体は知っているが、その具体的内容を即座に言える児童は稀である。この標語は犯罪学の研究から生まれたものではなく、消防庁の避難標語「おかし」を模倣して作られたもので、大人の言葉遊びに近い側面がある。

犯罪学的な裏付けがない教育は、大人の「やっている感」を満たすだけの自己満足に陥る危険があるのではないだろうか。「実践なき理論は無力であり、理論なき実践は暴力である」と言わなければならない。


犯人の心理を知り、犯罪者のターゲットリストから外れることも重要だ。

過去の事件の犯人たちの証言からは、意外な事実が浮かび上がっている。例えば、小学1年生の象徴である「黄色い帽子」は、交通安全には有効だが、防犯の観点からは犯罪誘発性を有している。犯人たちは、「黄色い帽子が目印になる」「黄色い帽子をかぶっているから目隠しには十分」と供述している。

警察庁の調査によれば、子供の連れ去り事件の8割は強引な拉致ではなく、言葉巧みにだまして連れて行くケースである。犯人にとって黄色い帽子は、最もだましやすい低学年であることを知らせる看板になってしまっている。

また、犯罪者は子供が複数でいるときよりも、一人でいるときを圧倒的に好む。この点を理解するために、アフリカのサバンナに生きる草食動物の戦略が参考になる。シマウマは群れになることで模様が重なり合い、一頭一頭の輪郭を曖昧にすることで、肉食動物にターゲットを絞らせない。子供も同様であり、一人で歩く黄色い帽子の子は、犯罪者の目に強烈な存在感として飛び込んでくるのだ。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページはこちら。YouTube チャンネルはこちら

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