ニュース速報

ワールド

特別リポート:隠れた環境危機、海の生物に何が起きているのか

2018年11月10日(土)09時54分

 10月30日、地球の7割を覆う海洋は、過去数十年で前例のない温暖化を経験し、海流が変化した。こうした隠れた気候変動は、海洋生物に憂慮すべき影響を与えている。写真は、ロブスター漁船。米メーン州で昨年7月撮影(2018年 ロイター/Shannon Stapleton)

Maurice Tamman and Matthew Green

[30日 ロイター] - 大海原の前に立つことは、その永遠性を目の当たりにしていることに等しい。海洋は、実に地球の7割を覆っている。

地上に匹敵するほどの山脈や渓谷が海面下には隠れている。そこは、地球最大の植物や生物の生息地であり、地球上の生き物の大半にとってのすみかとなっている。

ほとんど知られていないこの世界では、熱帯から気温の低い地域へと高速の海流が温かい海水を運び、逆に冷たい海水は極地からより暖かい地域へと移動している。

われわれは、自分の血流と同様に、この仕組みを当然のこととして受け止めている。この仕組みが地球の気温を調節し、人間が生み出した熱や二酸化炭素を吸収して近年の大気温の急上昇の影響を緩和している。気温を調整してくれるこうした海流が存在しなければ、地球で生物が生きていくことは不可能だろう。

だが過去数十年で、海洋は前例のない温暖化を経験し、海流が変化した。こうした変化は地上からはほとんど知る由もないが、隠れた気候変動は、海洋生物に憂慮すべき影響を与えている。事実上、海中で起きている大規模な「難民危機」といえる。

ロイターは、米国の東海岸沖から西アフリカ沿岸地域に至るまで、海洋生物が生き残るために生息地から逃れ、その結果、それら生物に依存していた生物が生存の危機に直面していることを発見した。

海水温が上昇すると、魚や他の海洋生物は極地へと移動し、繁殖に必要な均一な温度環境を維持しようとする。こうした大規模な移動を行う生物の数は、地上で観測されている温暖化の影響を小さくすら見せるかもしれない。

例えば、米国の北大西洋地域では近年、連邦政府が追跡してきた約70種の生物のうち少なくとも85%が、過去半世紀以上の基準と比較して、北方あるいはより深い場所、もしくはその両方に移動していた。そして、最も劇的な移動は過去10─15年に起きていた。

魚は常に、変わりゆく環境の変化に適応してきた。それは時に、人間に壊滅的影響を及ぼす。過去数世紀、ニシンが不漁に終わった年はノルウェーの漁村が飢餓に苦しんだことはその一例だろう。

だが、こんにち起きているのは、それとは全く異なる。科学者が化石燃料が主因だと考える海水温上昇の加速によって、漁業に永続的な変化が起きている。

水面下で起きている変化は学術上の問題ではない。国連食糧農業機関(FAO)によると、漁業は世界で年間1400億─1500億ドル(約16兆─17兆円)のビジネスとなっている。一部の国では、海産物は普通の人の食事の半分を占める。

だが、世界各地の海で起きているこのような大規模な生物の移動による影響は、より身近な性質のものだ。

米メーン州のロブスター漁師やノースカロライナ州の漁師の暮らしが危ぶまれている。イワシを食べるポルトガル人や海産物が大好きな日本人の文化遺産も危機に瀕(ひん)している。気候変動が一因となって急成長している水産養殖産業は、西アフリカの伝統的な漁業を崩壊させ、東南アジア沿岸部のマングローブ生育地を破壊している。

以下に、各地の状況を簡単に説明する。

●日本

日本近海では過去100年において平均海面水温が約1.11度上昇した。これは世界全体の伸び(0.54度)より大きい。海水温が上昇した海域を避けようとしてスルメイカが北上しているため、漁獲量が減り、価格が上昇している。イカ釣りで知られる函館などの漁師だけでなく、すし店や海産物を愛する国民の暮らしに打撃を与えている。

●米ノースカロライナ州

約40年前、ここはナツヒラメが大量に確認される生息地だった。だが近年では、40キロ北方で見つかることが多い。

●米メーン州

1980年代と90年代は、米国で獲れるロブスターのうちメーン州産は50%だったが、今では85%近くに上る。

●ポルトガル

スペインのガリシア州からポルトガル南部に至る大西洋沿岸地域にかけて生息するイワシは、ほぼ壊滅状態にある。

●ノルウェー

より多くのサケ養殖業者が北極圏への移動を余儀なくされる可能性がある。

●モーリタニア

セネガル沖とモーリタニア沖の海水温上昇により、1995年以降、イワシの仲間は320キロ以上の北上を余儀なくされた。

●マレーシア

赤道付近の生物は、より高緯度に生息する耐寒性のある同類と比べて、穏やかな温度上昇にも耐えるのが困難な可能性がある。

(翻訳:伊藤典子 編集:山口香子)

ロイター
Copyright (C) 2018 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ノーベル賞逃し軌道修正 「もう平和だけ

ワールド

イラン、インターネット遮断解除検討か 国営TVハッ

ワールド

米の脅迫に屈さず、仏独財務相 反威圧措置も選択肢に

ワールド

高市首相23日解散表明、投開票2月8日 与党過半数
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で国境問題が再燃
  • 2
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰に地政学リスク、その圧倒的な強みとは?
  • 3
    DNAが「全て」ではなかった...親の「後天的な特徴」も子に受け継がれ、体質や発症リスクに影響 群馬大グループが発表
  • 4
    AIがついに人類に「牙をむいた」...中国系組織の「サ…
  • 5
    シャーロット英王女、「カリスマ的な貫禄」を見せつ…
  • 6
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 7
    「リラックス」は体を壊す...ケガを防ぐ「しなやかな…
  • 8
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 9
    中国ネトウヨが「盗賊」と呼んだ大英博物館に感謝し…
  • 10
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 6
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 7
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 8
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 9
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 10
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中