ニュース速報

ビジネス

焦点:需要回復見えない商業不動産、銀行や投資家は八方ふさがりに

2023年07月31日(月)16時35分

 7月31日、商業不動産セクターに融資している銀行や、資金を振り向けている投資家は、できることなら考えたくない疑問を突きつけられつつある。写真は2021年、ワシントン州シアトルで撮影(2023年 ロイター/Karen Ducey)

[ロンドン/シドニー 31日 ロイター] - 商業不動産セクターに融資している銀行や、資金を振り向けている投資家は、できることなら考えたくない疑問を突きつけられつつある。それは、人々が新型コロナウイルスのパンデミック前のようにまた商業施設に足を運んだり、オフィスに通勤したりしないとすれば、一体どうすれば対象資産の価値を保全できるのかという問題だ。

金利上昇や根強いインフレ、荒れ模様の経済環境などは、経験豊富な商業不動産の買い手にとってはおなじみのマイナス材料で、賃貸需要が回復し、借り入れコストが低下するまでやり過ごす方法は心得ている。

こうした循環的な悪化サイクルにおいても、ローンの借り手に返済の見込みがあると銀行側が確信し、物件価値が借入額を上回っている限り、市場で投げ売りが起きるケースはほとんどない。

しかしロイターがアナリストや学者、投資家らに話を聞いたところでは、今回は事情が異なるかもしれない。

オフィス勤務を基本としてきた多くの企業では今、リモートワークが常態化し、消費者のネット通販利用も定着。このためロンドンやロサンゼルス、ニューヨークといった大都市ではもはや市民の需要がなくなっている建物が急増している。

つまり都市の中心部にある高層ビルや周辺に散在するショッピングモールの資産価値が回復するには、これまでよりずっと長い時間がかかる可能性がある。また借り手が見つからなければ、物件オーナーや銀行は従来のサイクルよりも大きな損失を被ってもおかしくない。

英シェフィールド大学のリチャード・マーフィー教授はロイターに「雇用主は巨大なビルに従業員を収容しておく必要はなくなったと考え始めている。商業不動産オーナーは懸念すべきで、投資家は撤退するのが賢明だ」と語った。

<大手行が抱える爆弾>

ムーディーズ・インベスターズ・サービスは6月、総額6兆ドルに上る商業不動産融資残高のおよそ半分はグローバルクラスの最大手行が保有し、その大部分が今年から2026年までに返済期限を迎えると明らかにした。

米銀各行は今年上半期に不動産関連の損失が膨らんだと発表し、今後さらに損失が生じると警告している。

米国の商業不動産投資信託(REIT)セクターに融資している大手行が7月、データ提供会社クレジット・ベンチマークに示した信用リスク評価に基づくと、このセクターでデフォルト(債務不履行)が発生する確率は半年前の見積もりに比べて17.9%高まった。

米投資会社ダブルラインのジェフリー・シャーマン副投資責任者は、一部の米銀は向こう2年間に予定されている商業不動産セクターの借り換えに貴重な流動性を割かなければならないことを懸念していると指摘する。

銀行から預金が流出し、マネー・マーケット・ファンド(MMF)や米国債などリスクフリーなのに利回りが高い商品に向かうという事態が「いつ起こってもおかしくない」からだ。

シャーマン氏は、米連邦準備理事会(FRB)が高金利を続ける限り、預金流出は時限爆弾のようなものだと説明した。

シーズ銀行のシャルル・アンリ・モンショー最高投資責任者は、急激な金融引き締めをダイナマイト漁にたとえる。

「(ダイナマイトを爆発させて)最初に水面に上がってくるのは小さな魚で、大きなクジラは最後に浮上する。ではクレディ・スイスはクジラだったのか、それともシリコンバレー銀行だろうか。われわれには後になってみないと分からないが、米国の商業不動産がクジラであってもおかしくない」という。

<下がるリターン>

不動産企業ジョーンズ・ラング・ラサール(JLL)が7月に公表したデータによると、ニューヨークと北京、サンフランシスコ、東京、ワシントンDCでは、高賃料が得られる「プライムオフィス」の賃貸契約の伸びが前年比でマイナスに転じている。

また同業のサビルズによると、中国の最有力金融センターである上海では、第2・四半期のオフィス空室率が16%と前年比で1.2ポイント上昇した。

テナント側の各企業は温室効果ガス排出量削減の重圧にもさらされており、例えばHSBCはオフィスの総面積を縮小するとともに、環境にとって十分にやさしいと見なされなくなった物件の契約は打ち切っている。

JLLの試算に基づくと、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにするためには世界全体で10億平方メートル強のオフィスの改修が必要になる。

一方でキャピタル・エコノミクスによると、今後10年間の世界の不動産投資リターンは年4%前後と、パンデミック前の平均8%から大きく切り下がる見通し。「投資家は不動産のリスクプレミアム下振れを甘受しなければならない。不動産は過去の基準に照らすと過大評価されて見えるようになるだろう」という。

(Sinead Cruise記者、Lucy Raitano記者、Lewis Jackson記者)

ロイター
Copyright (C) 2023 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮が短距離弾道ミサイル発射、日本のEEZ内への

ワールド

中国、総合的な不動産対策発表 地方政府が住宅購入

ワールド

上海市政府、データ海外移転で迅速化対象リスト作成 

ビジネス

中国平安保険、HSBC株の保有継続へ=関係筋
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中