コラム

米軍特殊部隊とCIAのバグダディ急襲作戦は100点満点

2019年11月05日(火)19時45分

急襲作戦の直前に撮影されたバグダディの潜伏場所 U.S. DEPARTMENT OF DEFENSE-HANDOUT-REUTERS

<ISIS最高指導者を自爆に追い込んだ「ヒューミント」を駆使した周到な作戦内容とは>

テロリストとは、狂信的で理想主義者で運命論者、しかも少し抜けているものだ。そんな彼らの行方を世界中の警察や軍隊、特に諜報機関が追い、命を狙っている。

10月26日、米軍の特殊部隊とCIAがシリア北部で急襲作戦を遂行し、テロ組織ISIS(自称イスラム国)の最高指導者アブ・バクル・アル・バグダディを追い詰め、自爆に追い込んだ。

申し分ない戦術だった。今回の成功は、特殊部隊とCIA傘下の特別行動部が築き上げた協調のたまものだ。人による諜報活動、同盟国との協力、技術を駆使した情報収集、入手情報の裏付け作業を経ての準軍事行動、そして作戦の結果確認と全てがそろい、まさに教科書どおりだった。

「HUMINT(ヒューミント)」とはCIAの主要任務を指す言葉で、人間を媒介とした諜報を意味する。バグダディの潜伏先についての有力な情報は、数カ月前にバグダディの妻の1人と側近を拘束・尋問した際にもたらされたらしい。

その証言を検証するために、CIAはクルド人やイラク人の部隊と協力し、潜伏先とされた場所にスパイを送り込んだ。この人物は元ISISメンバーで、親族がISISに殺されたことへの怒りからスパイを買って出たようだ。復讐心はスパイ活動に身を投じる人間によくある動機だ。

それでもテロ組織は消滅しない

情報が絶対に正しいということはあり得ない。それが諜報のプロが取るべき姿勢だ。あらゆる情報は、可能な限り徹底的に真偽を確認しなくてはならない。

そこでアメリカの諜報部門はドローン(無人機)や人工衛星などを用いて容疑者の動きや居場所を確認する。グーグル・アースを見れば、衛星写真の精度に驚くはずだ。アメリカの対テロ部門はこうした機器に加えて、情報分析の高度な技術も持っており、「人違い」のリスクを減らしている。

バグダディの潜伏先情報を入手すると、複数の特殊部隊がすぐに共同作戦を練り始めた。だが、ここ数週間で2回の襲撃作戦を土壇場で中止していたという。

10月26日の作戦は、アメリカ人援助活動家の名前にちなんで「ケーラ・ミューラー作戦」と名付けられた。バグダディは誘拐したミューラーに自らレイプを繰り返し、拷問。彼女は2015年に殺害されたと考えられている。

26日の作戦は2時間続き、完璧に遂行された。DNA検査によって、遺体は確かにバグダディのものだと確認された。ケーラ・ミューラー作戦の成功は、素晴らしい諜報活動と戦術の結果だった。人間とテクノロジーによる諜報活動、同盟国や他部門との連携、そして情報と計画と目的と結果をしつこいほど確認し続けた成果だ。米諜報・軍事部門はこうした手順をルーティンとして踏んでいる。そしてターゲットを逃さない。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:軽飛行機で中国軍艦のデータ収集、台湾企業

ワールド

トランプ氏、加・メキシコ首脳と貿易巡り会談 W杯抽

ワールド

プーチン氏と米特使の会談「真に友好的」=ロシア大統

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 8
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story