コラム

ラジオを聴かない奴はなぜ馬鹿か

2021年06月30日(水)14時52分
スマホでラジオを聴くイメージ

まだ知性を残す貴重なラジオなのに、リスナーは減る一方 milindri-iStock.

<ワイドショーやYouTubeに毒され、知的レベルが下がる一方の日本人を救えるのはラジオしかない>

衝撃的なニュースが飛び込んできた。6月15日、全国47局のラジオ局のうち44局が2028年までにFMに移行すると発表したのである。これによって、首都圏でも著名なTBSラジオ、ニッポン放送、文化放送などは少なくともあと7年程度で完全にFM局となる。思えば私の人生の中で、はじめて「レギュラーコメンテーター」を任されたのはTOKYO FMの報道番組だった。現在ではこの番組自体が終了しているが、民放AM各局が足並みをそろえてAMを捨て、FM局に移行するというのは驚天動地の驚きである。

しかし、ラジオ関係者はこれを概して好機として捉えているようだ。AMは言うまでもなく長波である。長波はその周波数の特性がゆえに広大な聴取圏を持ち、これであるから日本海側の各県では北朝鮮のAMラジオが聞けたほどである。私は生粋のラジオっ子であった。中学の時からTBSラジオの深夜番組にハマり、『伊集院光深夜の馬鹿力』(当時)を毎週欠かさずエアチェックしていた。

関西の大学で大学生活を送るようになると、関西はTBSラジオの聴取圏外だったが、淀川の河川敷に出れば車載AMのアンテナを最大に貼って東京からのTBSラジオ放送を雑音交じりに受信できた。長波はその可聴範囲が広い反面、AM波を遮蔽する山岳地帯の反対側や、大都市部であってもビルの谷間などに俗にいう「難聴取地帯」が現出する。

「radiko」の誕生

これを補完する目的で建設されたのがワイドFM局である。AMとFMの違いは、ラジオ波の周波の山ぼこが違う事で、AMは長距離に飛ぶが遮蔽物に弱い。FMは短距離にしか飛ばないが強力なので遮蔽物に強い。だからFMではクリアーな音質で音楽が聴ける。こういう特徴があった。

このラジオ界の勢力を一変させたのは、サイマル放送である「radiko」の誕生である。NHKを除く民放の殆どがこのradikoに加盟し、それまで各聴取者在住の圏域でしか聞けなかったAM・FMラジオが、有料会員になればどこでも過去1週間にさかのぼって聞けるようになった。例えば沖縄在住者が東京のラジオを、東京在住者が北海道のラジオを聞けるようになった。アーカイブ機能も付いたので、テレビ地上波ともまったく毛色の違う大メディアが出現した。

radikoの登録者数は2021年現在で約1000万人に達し、なかでも有料会員は70数万人に達している。この有料会員数は、日本経済新聞デジタル版の有料会員とほぼ同じ登録者数で、最早ラジオは無料の知的媒体から有料の知的媒体になりつつある。こういったことも踏まえて、AMラジオは一斉にFM化を図ったのだろう。AM放送送信のためにかかる送信塔の維持コストがもやは馬鹿にならないとしての判断でもあった。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

半導体製造装置販売、AIブームで来年9%増 業界団

ワールド

アルミに供給不安、アフリカ製錬所が来年操業休止 欧

ビジネス

川崎重社長、防衛事業の売上高見通し上振れ 高市政権

ワールド

インド中銀総裁「低金利は長期間続く」=FT
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story