英国には存在しない公選の第二院、すなわち参議院は、社会に鬱積する不満が暴発する前に、その制度的な受け皿となるのではないか。
喩えるなら、ポピュリズムという激流を、一度受け止めて流れを整える「ダム」のような存在である。急激な変動を避けながらも、民意を穏やかに政策へと導く──そのような「調整弁」としての姿が見えてくる。
まず、参院は半数改選であるため、参政党の議席数は、世間を騒がせた割に少ない(15/248議席)。参院の権限は衆院に劣ることもあり、今回の結果で政策が極端に変化することはない。
一方、参政党の脅威は自公政権に政策対応を迫り、選挙期間中にもかかわらず、内閣官房に外国人政策専用の事務局が新設された。既に、外国人起業家の在留資格の厳格化や、訪日外国人の運転免許証切替の難化が方針として示されている。
これらの動きは、有権者の不満が政策へと穏健に変換されることを意味している。石破首相の辞任も含め、参政党支持者が抱く政治不信は、一定程度「ガス抜き」されたのではないだろうか。
また、参院選後、参政党が白日の下に晒され、メディアの注目を集めることで、政権選択選挙である次期衆院選に先立ち、参政党の力量や実態をチェックできる。
早速、参院予算委員会(8月5日)で神谷宗弊代表が行った首相への初質問に対しては、多くの識者から未熟さを指摘する声が上がった。参議院はこのように、政権担当能力が問われる衆院選に挑む前の「予選」として機能する。
さらに、こうした「予選」のプレッシャーや他党との連携の中で、党の政策が丸くなり、参院で「飼い慣らされる」可能性もある。加えて、次期衆院選まで一定期間が空くことで、現在の参政党支持者も次回の投票時には熱狂が薄れ、より冷静に投票先を判断できるようになるかもしれない。
実は、筆者は今年2月に刊行した著書『参議院による多元的民意の反映──政治改革の補正と阻害』(東京大学出版会)で、参院はポピュリズムの拡大を抑止する「防波堤」だと論じていた。
参院は選挙区も比例区も広く、自民党なら県議団(党県連)や業界団体、民主党なら労働組合といった大規模組織が重要性を高める。
結果として、地方や郵便局を代弁する参院自民党は、郵政民営化法案の採決で大量造反をし、法案を否決に追い込んだ。また、参院民主党も、反労組の日本維新の会と民主党が接近するのを牽制し、民進党は大阪系の維新勢力を含まない形での合流となった。
以上が拙著の論旨であったが、今回の参政党躍進は、「参院=ポピュリズムへの防波堤」という見立てを揺さぶるものであった。
では、どのような心構えで、参院に取り込んだポピュリズムと共存していくか──。参政党が何を社会に突き付けているかを最後に考えたい。