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日本社会

なぜ日本人は「お土産」を配るのか?...「白い恋人」に香港ミルクティー、「名物」の意外なルーツとは?

2025年11月05日(水)11時05分
小栗宏太(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所ジュニア・フェロー)
じゃがポックルなど日本のお土産菓子

Pakpoom Phummee-Shutterstock


<ハワイのあの定番土産も日本人観光客向けだった...? 日本特有の「土産文化」はいかにして生まれたのか >


出張先で菓子を購入し、職場の同僚に配る。反対に、旅行帰りの知人から菓子をもらったりする。何気ない日常的な土産のやり取りだが、これって実は、日本特有の文化らしいのだ。

そんな日本の土産文化を学術的に掘り下げ、その歴史を明らかにする本が今年に入って2冊刊行された。

1冊目は、鈴木勇一郎著『おみやげと鉄道:「名物」が語る日本近現代史』(講談社学術文庫、2025年)である。もともと2013年に単行本として刊行された書籍だが、文庫として再版されたのでお値段的にもサイズ的にも手に取りやすくなった。

著者は英語の「スーベニア(souvenir)」と日本語の「土産」を区別しながら、日本の土産文化の特色を指摘する。

「思い出」を意味するフランス語に由来する「スーベニア」は語源からして「思い出の品」としての意味合いが強く、通常は旅行者本人が自身のために購入して帰る記念品を指す。

いっぽうで日本の「土産」には、菓子類が選ばれることが多い。これは食せばなくなってしまうため「思い出の品」としての機能は果たさない。また、旅行の思い出を共有していない他人に配るために購入されたりもする。

なぜ私たちは他人に配るための菓子土産を買うのだろう。本書は、近世以前の「おかげ参り」などの慣習とのつながりや、観光ペナントなどの「スーベニア」的土産が「いやげもの」として忌避されるようになった経緯などに触れながら、その歴史を掘り下げている。

タイトルにある通り、メインに論じられるのは、近代的交通網の発展が各地の土産にもたらした変化である。そんな観点から、伊勢名物の赤福など、駅の土産物店でお馴染みの銘菓の歴史も紐解かれている。

「『旅先で買ったお菓子を配る』のは日本人だけ?!」という本書の主張、言われてみれば納得である。たしかに海外の土産物店では、菓子類はそれほど見かけないからだ。私が研究のために頻繁に訪れている香港も同様である。

国際的な観光地だけあって「スーベニア」的な工芸品は大量に売られているし、食品類の土産がないわけでもないが、日持ちがして、多くの人に配るのに向いたいわゆる「バラマキ土産」的なお菓子となると、なかなか見つからない。

実際、香港を訪れる日本人観光客からも、しばしば「香港には手頃なお土産がなかった」という声が聞かれる。

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