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日本社会

なぜ日本人は「お土産」を配るのか?...「白い恋人」に香港ミルクティー、「名物」の意外なルーツとは?

2025年11月05日(水)11時05分
小栗宏太(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所ジュニア・フェロー)

ふたたび香港の話に戻ると、この街のよく知られた名物の一つにミルクティーがある。英領時代に発展したミルクティーで、濃く煮出した紅茶とエバミルク(無糖練乳)で作られるのだが、材料や風味の点で他地域にはない超強烈な個性があるかというと、そこまでではない。

練乳や茶葉もおそらく香港産ではなく、東南アジアの周辺地域にも旧英領を中心に似たようなミルクティーはあったりする。それでも香港の人々は、この飲み物を街の文化を象徴する名物とみなし、並々ならぬこだわりをもっている。

私はかつて、そんな香港式ミルクティーについて「どこにでもありそうで、ここにしかない」飲み物と形容したことがあるが(*)、本書『お土産の文化人類学』を読むと、日本のご当地菓子の多くも同じだろうと思う。

そこでしか手に入らないものだから価値がある、というだけではない。一見ありふれた事物の中から、その地域だけの名物を作り出そうとする営みにもまた、かけがえのないものがある。

一箱の菓子土産は、その地域に関わる人々の努力の結晶であり、だからこそ、そこにはやはり、当地ならではの歴史が詰まっているのだ。

日本の土産文化のルーツを深掘りするこの2冊の書籍、ぜひ次回の出張や旅行のお供にいかがだろうか。お土産コーナーでのいつも通りの菓子選びを、いつもよりも格段に楽しくしてくれること請け合いである。

(*)小栗宏太『香港残響:危機の時代のポピュラー文化』東京外国語大学出版会、2024年、第4章を参照。


小栗宏太(Kota Sasha Oguri)
東京外国語大学大学院総合国際学研究科修了。博士(学術)。現在同大学アジア・アフリカ言語文化研究所ジュニア・フェロー。文化人類学的観点から香港の消費文化を研究している。主著に『香港残響:危機の時代のポピュラー文化』(東京外国語大学出版会、2024年)など。同書に関わる研究でサントリー文化財団2022年度および2023年度「若手研究者による社会と文化に関する個人研究助成(鳥井フェローシップ)」に採択。


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