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なぜ日本人は「お土産」を配るのか?...「白い恋人」に香港ミルクティー、「名物」の意外なルーツとは?

2025年11月05日(水)11時05分
小栗宏太(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所ジュニア・フェロー)

例外として、老舗ベーカリーの奇華餅家が発売している「パンダクッキー」(熊貓曲奇)という商品があるのだが、これは2000年代初頭に開発された比較的新しい香港土産だ。

しかも発売当初は「香港にもついにお土産が!」(香港終於有手信)というキャッチコピーがつけられたそうだから、香港における菓子土産の不足を補うべく、意識的に作り出されたものかもしれない。

『おみやげと鉄道』の著者によれば、ハワイ土産として有名なマカダミアナッツチョコは現地の日系人が日本人観光客向けに開発したものだという。もしかすると「パンダクッキー」も、日本からの需要に応えて開発されたのだろうか。

さて、この「パンダクッキー」、パンダの形をしているだけの何の変哲もないクッキーである。たぶん香港特有の原材料が使われているわけではない。野生のパンダが生息しているわけでもないから、個人的には「正直、これを香港土産と言われても......」と思わなくもない。

しかし、日本の事例を見てみても、たとえば「東京ばな奈」や「白い恋人」など、お土産の定番商品の中には、地元土着の食材を使っているわけではないものもある。こういった菓子が、なぜ東京土産や札幌土産の定番になりえたのだろうか。

そんな問いに答えてくれる書籍として、もう1冊お勧めしたいのが、鈴木美香子著『お土産の文化人類学:地域性と真正性をめぐって』(人文書院、2025年)だ。

本書では、日本中に溢れる1073点もの菓子土産が調査対象とされ、それぞれの来歴や特徴、地域との関わり(本書の言葉で言えば「地域性」)がまとめられている。圧巻の情報量を誇る1冊で、ご当地商品の開発等に関わる人には必読の1冊だろう。

ただのお土産好きとしても駅でよく見かける商品の来歴がわかったりして、パラパラ見ているだけで楽しいのだが、本書を読んでいると、菓子土産と地域との関わりは、思った以上に複雑なものだと気づかされる。

地域で長く親しまれている商品であったり、そこでしか取れない特産品が用いられていたりすることは、菓子土産の一つの重要な要素ではあるが、必須の条件というわけではないという。一見するとどこにでもありそうな商品でも、場合によっては「名物」になり得るのだ。

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