前回のこのコラムで、中国の2015年上半期の成長率に関して疑念を呈し、成長率の推計値として5.3%という数字を示しました。

 それに対して、「中国の本当の成長率を探る方法として有名な『李克強指数』というものがあるではないか。なぜそれを使わないのか」と疑問に思った人もいたかもしれません。実際、富士通総研の柯隆氏も「李克強指数」が2015年上半期に2%ほどしか伸びていないことから中国の実際の成長率は「7%を大きく下回っている」と推測しています(『日本経済新聞』2015年8月20日)。

 一般論として、ある数字が疑わしいと思われるときは、関連する他の数字といろいろ突き合わせてみてその信憑性を考えるのはいいことだと思います。

中国の製造業は鉄道をほとんど使わない

 しかし、「李克強指数」についていえば、私は参照する価値はほぼゼロだと思います。ちなみに、「李克強指数」とは、現首相の李克強氏が遼寧省トップだった2007年にアメリカの大使に対して、「遼寧省のGDP成長率など信頼できません。私は省の経済状況をみるために、省内の鉄道貨物輸送量、銀行融資残高、電力消費の推移を見ています」(The Economist Dec. 9, 2010)と述べたと伝えられたところから来ています。つまり、この三つの指標の伸び率を加重平均したのが「李克強指数」で、一部の人はこれがGDP成長率よりも中国経済の動きを正確に表していると主張しています。

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「李克強指数」に対して私が強い違和感を覚えるのはそこに鉄道貨物輸送量が入っていることです。私はこれまで中国で無数の製造業企業を訪問してインタビューしてきましたが、製品や材料の輸送に鉄道を使っているという企業はほとんどありませんでした。何を使うかと言えばトラックです。では鉄道で何を運んでいるかというと、鉄道輸送貨物の55%は石炭なのです。これに石油や鉄鉱石など他の鉱産物を加えると、鉄道輸送貨物の74%が鉱産物で占められます。だから鉄道貨物輸送量で鉱業の動向をとらえようというのならまだしも、それで経済全体の動きをみようというのは大変無理があるのです。

 また、中国の銀行は民間企業には余り融資してくれず、もっぱら国有セクターにばかり融資していると言われます。だから銀行融資残高は国有企業の経営状況をみるうえでは参考になるかもしれませんが、GDPのなかで民間企業が国有企業よりも重要な今では余り参考にはならないでしょう。電力消費も電力を大量に使う重工業の動向をみるうえでは参考になるかもしれませんが、経済全体を見るうえでは限界があります。