今年の頭に起きてしまったISによる日本人人質事件では、残念ながら人質2人が殺害されてしまったが、残念な結果に到る前も後も「テロに屈しない」というワンフレーズのみで乗り越えようとしていた安倍首相の弁舌は、到底納得できないものであった。先月のパリ同時多発テロは、そのISの標的がどこまでも拡大している事実を知らせた。
今月初旬に、警察庁が2015年版の「治安の回顧と展望」を公表している。この1年は、国内に目を向ければ、安保法制に沖縄基地問題と、路上から異議を唱える声が膨らんだ年だったが、日本の警察が、今年そして来たる2016年をどのように捉えているのか、150ページにわたる本資料に目を通してみた。
本資料では、ISと日本のかかわりについて、「機関誌上で、有志連合に参加する国に対する報復を呼び掛けるとともに、日本の外交団を名指しし、それらを標的としてテロを行うよう呼び掛けている」とし、テロ組織と直接的な関わりをもたない個人が、影響を受けてテロ行為に走る「ローン・ウルフ型」のテロについても警戒を示している。
確かに警戒は必要だが、とはいえ「イスラム過激派が、イスラム諸国出身者のコミュニティーに潜伏し、テロのインフラを構築する、テロ資金調達等に利用する、コミュニティーのメンバーを過激化させるなどの活動に関与することが懸念される」との記載には、「やっぱりそうか」と頷くべきではないだろう。
というのも、この国に住まうイスラム諸国出身者への配慮に欠けた詮索が堂々と行なわれるのではないかという懸念が生まれるからだ。2010年に警視庁公安部の内部資料がネットに流出したが、そこで明らかになったのは、国内のイスラム教徒の動向を事細かに追跡していたこと。青木理『青木理の抵抗の視線』(トランスビュー)によれば、「都内に7カ所あるモスクすべてに監視拠点を設置し、そこに大量の要員をへばりつかせ、出入りする人々を徹底して追い回」していたという。
今、アメリカでは「イスラム教徒の入国を禁止する」という愚策を打ち出したドナルド・トランプ候補の支持率が急上昇しているが、これと同質の、「イスラム諸国出身者を見かけたら......」という安直な捜査が懸念される。来年5月下旬に行なわれる伊勢志摩サミットについて、「テロリストによって格好の標的となり得る」としているが、かといってフリーハンドで思うがままに「イスラム諸国出身者」を疑うべきではない。