<ヒラリーの新刊の回想録は、読者が抱えるナラティブ(ストーリー)を変える内容ではなく、政治家としてのヒラリーの限界を表している>
予備選でオバマ大統領に敗れた2008年大統領選の後、再び立候補することを決意した経緯からショッキングな敗北、そしてトランプ大統領就任後の現在に至るヒラリーの回想録には、読者を驚かせるような告白や暴露はない。
予備選のライバルだったバーニー・サンダースと情熱的なサンダース支持者からの不公平な攻撃に対するフラストレーションも遠慮なく書いている。そのダイナミクスをヒラリーの支持者がまとめたフェイスブックの書き込みが選挙中に有名になったのだが、本書ではヒラリー自身がそれを紹介している。
バーニー:アメリカは仔馬(子供が親におねだりするものの象徴)をもらうべきだ。
ヒラリー:仔馬の代金はどう工面するのですか? 仔馬はどこから入手するのですか? 仔馬の購入をどうやって議会に承諾させるのですか?
バーニー:ヒラリーは、アメリカには仔馬を得る資格がないと思っている。
バーニー支持者:ヒラリーは仔馬を憎んでいる!
ヒラリー:いや、仔馬は大好きですよ。
バーニー支持者:ヒラリーは仔馬についての政治的立場を変えたぞ!#WhichHillary?(どっちのヒラリーだ?) #WitchHillary (魔女ヒラリー)
ニュースのヘッドライン:「ヒラリーが全国民に仔馬を与えることを拒否」
ディベートの司会者:ヒラリー、あなたが仔馬について嘘をついたと人々は言っていますけれど、それについてどう感じますか?
もし、この本に「驚き」があるとすれば、サンダースへのフラストレーションを含めて、これまでヒラリーが書いた回想録の中で、最も自分の感情を正直に吐露している部分だ。
本書の中でも本人が書いているが、弁護士としてトレーニングを受けたヒラリーは、口を開く前にじっくり考え、数字などの根拠に基づいた正確なことを話そうとする癖がある。そのフォーマルさが、「計算深い」「何か隠しているのではないか?」「正直ではない」という彼女のネガティブなイメージにも繋がっている。
また、常にポリティカル・コレクトネスを保とうとするヒラリーに対して「いい子ぶりっ子している」という反感を抱く者がいるのも否めない事実だ。大統領夫人だった1990年代にダメージを受けたときからメディアとの関係も良いとは言えず、メディア取材に対して心理的な鎧をかぶってしまう。これが悪循環になってきたことはヒラリー本人も自覚している。