12年前の2004年に刊行された、アメリカ建国時代に活躍した政治家アレクサンダー・ハミルトンの伝記が、再びベストセラーになっている。

 再流行のきっかけは、ブロードウェイのミュージカル『Hamilton』だ。もともとはオフ・ブロードウェイで小さくスタートしたのだが、またたく間に人気になり、ミュージカルアルバム部門でグラミー賞を受賞した今ではチケット入手が難しくなっている。

「建国時代の政治家の人生」と「ミュージカル」という組み合わせも意外だが、ハミルトン役のリン=マヌエル・ミランダ(Lin- Manuel Miranda)をはじめ主要なキャストがラテン系やアフリカ系アメリカ人で、音楽はジャズやラップというのも型破りだ。

 ニューヨーク生まれのミランダの両親は、アメリカの自治連邦区であるプエルトリコの出身だ。カリブ海にあるこの島は、「アメリカであってアメリカではない」という立場にある。ミランダが偶然手に取ったChernow著の『Alexander Hamilton』に惚れ込み、ミュージカルの製作だけでなく、脚本、作詞作曲、主演までこなしたのは、カリブ海で生まれ、移住したニューヨークを拠点にしたハミルトンに強い親近感を抱いたからだろう。

 ハミルトンは、すべてにおいて型破りな人物だった。18世紀なかばにイギリス領西インド諸島で内縁関係の父母の間に生まれたハミルトンは、10代で孤児になり、独学で文筆家としての才能を発揮して、 経済的な援助を集め、ニューヨークに留学する機会を得た。キングスカレッジ(現在のコロンビア大学)で経済学や政治学を学ぶかたわら、独学で広い分野の知識を蓄え、またたく間に頭角を現した。

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 ハミルトンは頭脳明晰なだけでなく、独立戦争に従軍して軍人としての才能も発揮し、後に初代大統領となるジョージ・ワシントン総司令官の副官として活躍した。建国後は合衆国憲法の草稿を執筆し、ワシントン大統領のもとで、初代の財務長官になり、「国立銀行」の設立を果たした。ハミルトン自身は大統領にはなっていないが、「Federalist(フェデラリスト)」の党首として、建国初期の大統領誕生の背後で影響力を持った人物だ。

「多才」という表現が陳腐に感じるほど多くの分野での卓越した才能があり、しかも20代前半の若さで国の重要な職に就いたハミルトンは、性格も言動も「ふつう」の領域をはるかに超えていたようだ。

 口が達者で、女性を魅了し、群衆を説得するのが得意だが、いったん自分が正しいと思い込んだら相手を論破し、意見を押し通すために敵を作りやすかった。後見人のような立場だった初代大統領ワシントンといさかいを起こして口をきかなかった時期があり、第二代大統領のジョン・アダムズとその妻アビゲイルからは徹底的に憎まれ、財務長官時代に国務長官を務めたトーマス・ジェファーソンとは理念のうえでまったく共通点がない政敵だった。