それにしても、「こんなに話が通じないのに、大丈夫なのか?」とハラハラさせられる2人だ。ボストンと大阪という距離の問題もある。どちらも住みかを移動させたら職を失う。自分と同じように裕福なユダヤ人男性と結婚してほしいTracyの母親は遠まわしに反対を続けるし、難問だらけ。それなのに2人は、障害を次々に乗り越えて何年もかけて深い愛情と絆を築き上げていく。

 Tracyの体験談を読みながら感じたのは、「カップルの言語と文化が同じではない」というのは、もしかすると欠陥ではなく利点ではないかということだ。

 母国語ではない言葉で語り合うと、頻繁に誤解が生じる。けれども、流暢な言葉でごまかせないほうが、人間性は露呈しやすいものだ。言葉以外のコミュニケーションに頼るしかないから、勘が働く。それに同国人が相手の場合は、相手が自分の心を読まないときに腹が立つが、外国人が相手だと、わかりあうための努力をし、譲歩する。当然だが、努力や譲歩をしたほうが関係は長続きする。

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6月にボストンで開催された出版記念パーティーで本を朗読するTracy(著者提供)
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パーティーにはTracyが主催する文芸サークルのメンバーが集まった(著者提供)

 私は東京で知り合ったアメリカ人と結婚して現在はボストンに住んでいる。そして、故郷は大阪の隣の兵庫県だ。だから著者のTracyとは微妙に逆の立場なのだが、大切な人とその人の国に対する心境の移り変わりは似ている。そして、相手を理解する努力と感謝の気持ちも、だ。

 何よりも「The Good Shufu」の魅力は全体に漂う暖かい雰囲気だ。

 TracyとToruは、若いカップルではないのに、青春小説の主人公たちよりずっとキュートだ。彼らの体験談は、よくあるロマンス小説よりずっとロマンチックで、ときに目が熱くなり、胸がキュンとする。

 妻を亡くして孤独になったToruの父親とTracyの関係もいい。日本人同士でなかったからこそ、互いの努力への「ありがたさ」を感じ、特別な嫁舅の関係ができたのかもしれない。

 家族との関わりを改めて考えさせてくれる本だ。

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The Good Shufu:

Finding Love, Self, and Home on the Far Side of the World

Tracy Slater

G.P.Putnam's Sons