<70年以上の関係を解消し、ドイツサッカー協会が米企業ナイキと契約したのはなぜか。「3本線がないのは想像できない」と反発が渦巻いている>

スポーツチームがユニフォームのメーカーを変更しても、普通は新聞の1面に載らないし、強い反発を招くこともない。だがサッカーのドイツ代表は、普通のチームではない。そして長年のスポンサーであるアディダスも、ただのスポーツ用品メーカーではない。

ドイツサッカー協会(DFB)は3月21日、代表ユニフォームのサプライヤーをドイツのアディダスからアメリカのナイキに変更する契約を結んだと発表。これが政治色さえ帯びた国内の怒りに火を付けた。アディダスは70年以上にわたってドイツ代表のパートナーだった。

2027年に始まるナイキとの契約は、年間約1億1000万ドルと報じられている。アディダスとの契約額の約2倍だ。DFBは借入金があるほか、税金の未納をめぐる訴訟も抱え、ナイキのオファーを断る余裕はなかった。

しかしDFBが「透明で無差別な入札手続き」の結果だと淡々と述べたプレスリリースを出すと、国内に反発が渦巻いた。政治家も党派を超えて、DFBの決定を批判した。

「代表チームは(アディダスの象徴である)3本線でプレーする。これはボールが丸く、サッカーの試合が90分であることと同じくらい自明だ」と、バイエルン州の保守派の州首相マルクス・ゼーダーはX(旧ツイッター)に投稿。アディダスとの決別は「理解できない」と嘆いた。

マルクス・ゼーダー州首相の投稿

ヘッセン州のボリス・ライン州首相は、ユニフォームの胸にあるワールドカップ(W杯)の優勝回数を示す4つの星のそばには、アディダスの3本線のロゴがあるべきだと発言。緑の党に所属する連邦政府のロベルト・ハベック副首相も「3本線のないドイツのユニフォームなど想像し難い」と述べ、ナイキの「スウッシュ」に替えるのは「ドイツのアイデンティティーの一部」を捨てることだと語った。

ボリス・ライン州首相の投稿
ドイツにおいてサッカーの代表チームは、最強の国家的シンボルだ。そしてアディダスはドイツの地方の同族会社から世界市場を制するまで成長し、経済大国となった戦後のドイツを多くの意味で体現している。行きすぎた愛国心を嫌うドイツだが、スポーツと輸出は国民的アイデンティティーの2本柱と言っていい。

ドイツの伝説を支えた

アディダスはドイツサッカーの伝説と深く結び付いている。1954年にスイスで開かれたW杯の決勝で、圧倒的に優位とみられていた強豪ハンガリーに西ドイツ(当時)が逆転勝ちした試合は「ベルンの奇跡」と呼ばれる。この勝利を支えたといわれるのが、アディダスの創業者アディ・ダスラーが開発した革新的なシューズだ。

ルドルフとアドルフがプーマとアディダスを作った