<南米から陸路で新天地を目指す決死の逃亡者に、ギャングと感染症とバイデン政権の新規制が立ちはだかる。「タイトル42」の失効後のアメリカはどうなるのか?>

アレックス・タルキ(31)と妻は、何としても5月11日までにアメリカとの国境に到着したかった。

その日をもって「タイトル42」(コロナ対策を名目にトランプ前政権が導入した不法移民の即時強制送還措置)が失効するのだが、代わりにもっと厳しく、難民申請を困難にする仕組みが導入されると聞いていたからだ。

タルキはエクアドルの首都キトで食堂を経営していた。よくあることだが、地元のギャングから月々の「見かじめ料」を要求されたので逃げ出すことにした。「命が危ない。払わなければ殺される」からだ。そうであれば難民申請の資格はある。

夫妻は3月に悪名高い「ダリエン地峡」を渡った。コロンビアとパナマの国境地帯にあり、南米大陸と北米大陸を陸路で結ぶ主要なルートとなるが、密林の道なき道で、恐怖の無法地帯でもある。

夫妻は既に、持ち金の約1500ドル(約20万円)を全て奪われていた。だから案内役のギャングに高い金を払って安全なルートを行くゆとりはなく、代わりに5日がかりの危険な行程を選んだ。

途中で、夫妻は川の水をじかに飲んだ。そのとき2匹の寄生虫が妻の体内に入り、脳と胃まで到達した。ダリエン地峡を抜けた4日後、妻は昏睡状態に陥った。そして赤十字のボランティアにより、パナマ市の病院へ運ばれた。

もうすぐ退院できそうだ、とタルキは言った。しかし再びアメリカを目指す旅に出ても、その先は見えない。

1944年に制定されたタイトル42は、危険な感染症の国内流入を防ぐため、感染の疑われる人の入国を禁止する規則だ。トランプは新型コロナ対策を口実にこれを発動し、移民の抑制に利用してきた。

それが失効したのだが、バイデン政権の導入する新規制の下ではもっと条件が厳しくなりそうだ。

現時点で公表されている情報によると、例えばメキシコやパナマなどの第三国を経由してくる場合、まずはその第三国で庇護を申請していない限り、アメリカでの申請はできない。

ただし保護者に連れられていない未成年者は例外。米税関・国境取締局(CBP)の入国手続きアプリ「CBP One」で事前申請し、入管事務所での面接を予約した人も例外となる。

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