注目されるのは、黒海沿岸という広大な地域のデータを集めるために、伝統的な調査手法と、ソーシャルメディアを活用した市民科学をミックスした手法が取られたことだ。市民科学とは、ボランティアが集めたデータを研究者が分析して結論を導き出すものだ。

痛みに苦しんで死んだ?

「海岸にイルカが打ち上げられているのを見たら、たいていの人は衝撃を受けて、ソーシャルメディアで情報や写真を共有する可能性が高い」と、ベングジンは語る。しかもその投稿には、場所や時間などの基本情報がタグ付けされていることが多い。

「これなら(通常の市民科学で必要な)ボランティアの基礎訓練をする必要がないし、戦争中に複雑なプロジェクトを立ち上げる必要もない」

研究チームは昨年5~7月の3カ月間に、ウクライナをはじめとする黒海沿岸諸国からソーシャルメディアに投稿されたイルカの漂着情報を集めた。同時にトゥズリ潟湖公園で、科学的手法にのっとったフィールド調査も行われた。

その結果、昨年の3カ月間にソーシャルメディアに投稿されたイルカの漂着情報は約2500件あった。海岸に打ち上げられないイルカもいることを考えると、実際には3カ月間で3万7500~4万8000頭のイルカが死んだと推定される。

「戦争前の生息数は約25万3000頭だから、3カ月で約15%が失われた計算になる」と、ベングジンは語る。

具体的には、何がイルカたちの死因になっているのか。

「海岸に打ち上げられたイルカの死骸には、戦争に関連した新しい傷があった。多くは爆発が直接的な死因だ」と、ベングジンは言う。

戦争の開始以来、黒海には無数の機雷が敷設されてきたほか、スネーク島の攻防戦やロシアによるオデーサ攻撃など、常に爆発が起きている。爆音に驚いて急浮上しようとして、減圧症で死に至ったと思われるイルカもいるという。

軍事用ソナーが、イルカのコミュニケーション能力やエコーロケーション(反響定位)能力にダメージを与える問題もある。「ソナー信号は、最大で約17キロ離れているイルカの行動も狂わせる。戦争中はそれが延々と続くから、黒海のイルカには逃げ場がない」と、ベングジンは語る。

「海岸で死んでいたイルカのかなりの数が、打ち上げられたときは生きていたが、重傷を負っていたため死に至ったことを示していた」とベングジンは言う。イルカには知覚があるから、「長時間にわたり苦痛を味わい死んでいったことは間違いないだろう」。

こうした犠牲を管理するためにも、「戦争が人間以外の動物に与える影響を科学的に測定・記録することが極めて重要だ」とベングジンは語る。

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