<俳優クリス・パインの魅力は少年っぽい情熱と陰鬱な知性。ロバート・レッドフォードを彷彿させる別次元の逸材>

スパイ映画『オールド・ナイブズ』(アマゾンプライム・ビデオで配信中)でタンディ・ニュートンが演じるCIAの元女性エージェントのシリアは、人も羨む立ち位置にいる。

今は一般人として、夫と子供と何不自由なく暮らすシリアだが、夕暮れ時、ほとんど客のいない海辺の高級レストランで、クリス・パイン演じる元恋人のヘンリーとテーブルを囲む。ヘンリーは今もシリアを熱愛している。2人はグラスワインを注文する。シリアは白、ヘンリーは赤を。

数々の回想シーンを挟んでディナーが中盤に差し掛かる頃には、テーブルの上に5つのグラスが並んでいる。ヘンリーの前に3つ、シリアの前には2つ。2人がゆっくりとディナーを楽しんでいたことを感じさせる描写だ。そう、このディナーは映画の終わりまで続くのだ。

最近のアクション映画としては、本作はスピード感に少し欠けるし、古風でもある。同じ場所で話が進むし、派手なアクションシーンより対話とキャラクターに重きを置いている。この手の作品は昔のアメリカ映画にはよくあった。ほどほどの予算で作られた大人向けのスリラーで、主役は超美形のスター俳優2人。お上品なベッドシーンを挟みつつ、事件の謎や外交問題の類いを解決していく。

本作を見終わって、まず脳裏に浮かんだのは1975年の映画『コンドル』だ。ロバート・レッドフォード演じる主人公もCIAの職員で、フェイ・ダナウェイ演じるヒロインとの恋はやや無理のある展開ながら、作中で大きなウエートを占めている。

そして、ふと思った。パインは21世紀のレッドフォードなのではないか――。となると、レッドフォードの時代とはまるで状況の異なる今の映画界で、パインが自らの才能や魅力に合った作品を探すのに苦労しているのも納得だ。

ハードボイルドは駄目?

例えばこの春、アメリカで公開された『ザ・コントラクター』では、彼の魅力は十分に発揮されたとは言えない。パインが演じたのは帰還兵ジェームズ。家族を養うために民間軍事会社に就職するが、陰謀に巻き込まれてしまう。

だが、パインの個性とジェイソン・ボーン的なキャラクターとの相性はいまいちだ。無表情で禁欲的で腕の立つ現代的なアクションヒーローなら、成り手はいくらもいるだろう。だが『オールド・ナイブズ』のパインのように、美しく盛り付けられた前菜をおいしそうに食べたり、各国語を巧みに操る様子を演じたり、空のワイングラスが並ぶテーブルの向こうから元恋人の目を意味ありげに見つめたりすることができる俳優は稀有だ。

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『オールド・ナイブズ』でヘンリーとシリアのディナーのシーンはキャラクターの存在感が際立つ STEFANIA ROSINI/AMAZON STUDIOSーSLATE
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