一方で、養子縁組をした762人の親子の声を集めたこの報告書は、「実際に特別養子縁組をした家庭からは、いまだに世間や学校での理解のなさで困ったという声も少なくない」とも指摘している。

社会の理解――これは、久保田が今回の取材を受けた理由の1つだった。「特別養子縁組をして幸せだと、母親がオープンに語ることはハナちゃんのためにもなるように思う」と、彼女は言う。

子供が養子であることまで他人に言う必要があるのか、久保田は一時期、逡巡していた。「子供を育てています」だけでは不足なのだろうか。そう思う一方で、こんなにポジティブな選択をしたのになぜ「隠す」必要があるのか、とも思った。ハナちゃんを迎えた当初はそれほど親しくない人にまであえて積極的に話していたが、相手が戸惑う場面を何度か目の当たりにするうちに、気を使わせるだけなのではと感じ、次第に告げなくなっていったという。

平本は、養子に対する「先入観」を感じることもあった。子供が生まれたと言えば、一般的には「おめでとう!」と言われるところだが、「養子を迎えた」と話すと「すごいね」「おまえ、えらいな」などと言われる。「それにはとても違和感がある」と、平本は言う。「うちは子供ができなかったから選択肢として養子縁組をして、縁があってハナちゃんが家族になって、ハナちゃんと楽しく過ごしている。普通のファミリーの暮らしをしているだけだから」

養子縁組家庭も多様な家族の形の1つなのに、特定の先入観がいまだに日本社会に染み付いている。社会の認識が平本の母が言った「養子を育てるのは大変」だというイメージで止まっているのだとしたら、それはあまたある幸せなストーリーがほとんど聞こえてこなかったからだろう。平本は「今の自分たちを見れば、おふくろもきっとハナちゃんをかわいがってくれたはずだ」と語る。

これまでに久保田がインタビューを通して語ってくれたことで、ここに書き切れなかった「小さな幸せ」は無数にある。

「夜、真っ暗な部屋のベッドで一緒に寝ていると、私がいるかを確認するかのように『ママー』と呼び、『はーい』と返事をする。それを繰り返しながら、いつしか安心したように寝息をたてるのを聞くとき。小さな手で、しっかり私の手を握ってくるところ。運動会で、私を見た瞬間に列から飛び出して駆け寄ってきたとき。

動物園で私が好きな動物、象とか、パンダ、コアラを、ハナちゃんも一緒に興奮して探してくれること。人からどう見られるかばかりを気にしていたけれど、今は人に何と思われてもいいや、ハナちゃんのためにできることを優先したいと思える、こんなにも大切なものができたこと。ハナちゃんと一緒に歩むこれからの人生を考えるとき」――。

久保田は真実告知をするための1つの方法として、ハナちゃんと自分についての物語を絵本にするつもりだ。定型化された幸せではなく、自分たちだからこその幸せを二人三脚で紡いでいく、その先にある唯一無二の物語。それこそが、いつか彼女がハナちゃんに語る家族の真実なのだろう。

※前編はこちら:TBS久保田智子が選択した「特別養子縁組」という幸せのカタチ(ルポ前編)

血のつながりのない子供を「わが子」として愛せるのか。特別養子縁組を検討する人にとっては、気掛かりな点の1つだ。ハナちゃんと1年10カ月過ごしてきた久保田は、今となっては「毎日一緒にいるということの強さ、その連続性が、愛情を育むのかもしれない」と思う。
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