――とはいえ、その境地に行けない人がほとんどですよね。なんとなく将来不安もありますし、周りが信じられない。

「悟ってますね」とよくいわれるのですが、僕は、悟りとか大嫌いなんですよ。「ファクトですよ」って僕はいっているのです。人間社会の真実を直視することです。去る者を追って、よかったことはないと、孟子の時代から偉人が述べているわけですから。

――人を信用できないといえば、『得する、徳。』でも触れられていますが、中国は人工知能(AI)とビッグデータをフル活用して、データ管理社会化を徹底して進めています。結果的に、治安の側面では効果が出ていて、倫理観が向上したとの声もあります。データ管理が進めば、外圧で人の倫理観が変わる、人を信用するようになる時代が来ることも考えられますか。

それはどうでしょう。ただ、監視カメラやデータ管理があろうとなかろうと、「天知る、地知る、我知る、人知る」なので、何をやろうとみんなが見ています。例外はあるかもしれませんが、悪事はほとんどが、どうせバレるんですよ。

――でもそういう気持ちになれない人が多いのが現実です。

不勉強の一言に尽きます。歴史上人間がやってきた悪事を見てきたら、悪事は必ずバレる。人の口に戸は立てられない。これは、悟れないのではなくて不勉強の一言に尽きます。

――要するに、歴史を知れば、合理的に、どういう行動をすればわかるということですね。

たくさんの人に会い、たくさん本を読み、いろんな所へ行ったら、わかるはずです。だから、悟りではないんですよ。人が信用できないのも、行動できないのも知識の不足です。

例えば、「清水の舞台から飛び降りる」という言葉がありますよね。必死の覚悟で実行するという意味ですね。これは清水の舞台から飛び降りることは怖いし、極めてリスクが大きくて危ないと思われていることの裏返しです。

しかし、大事なのは清水の舞台から飛び降りるのが本当に怖いのですかという話の方です。怖いのは、不勉強だからです。清水の舞台の下が何メートルあるかがわからないから怖いんですよ。実は12メートルぐらいしかないんです。そのファクトがわかれば、12メートルのロープを買ってきてロープ伝いに下れば少しも怖くないんですよ。ファクトがわかればリスクはコスト(ロープ代金)に転化するのです。

勉強してファクトがわかれば、ほとんどのことの対処法は自然と出てきます。多くの人に必要なのは悟りではなくて、人、本、旅の不足だと思います。

――なんとなく、イメージだけで膨らませて、不安になるって言う人が多いと思うんですけど、やっぱり勉強不足ということですね。

そうですね。「知識は力」ですから。

※インタビュー第3回:出口治明「社会的責任を叫びながら、いざ不祥事になると平気で居座る経営者はおかしくありませんか」に続く。

※インタビュー第1回:出口治明「日本は異常な肩書社会。個人的な人脈・信用はなくても実は困らない」


得する、徳。

 栗下直也 著

 CCCメディアハウス

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