Ruma Paul

[ダッカ 4日 ロイター] - バングラデシュは、低賃金と欧米主要市場に無関税でアクセスできることを武器に、中国に次ぐ世界第2位のアパレル輸出国へと成長してきた。しかし現在、賃上げを求める抗議活動が激化し、同国衣料産業の競争力の源泉である低コスト体制が正念場を迎えている。

抗議活動は10月31日に首都ダッカ周辺の工業地帯で始まり、数百の縫製工場が操業停止を余儀なくされた。労働者らは140%の賃上げを要求しており、一部では警察と衝突。警察は催涙ガスや音響手りゅう弾を使用して対応した。

今回の混乱はH&M、プライマーク、ウォルマートなど大手小売業者向けの春物商品の生産開始を目前に控えた時期に発生した。約400万人を雇用し、低コストかつ安定供給で知られるバングラデシュの縫製業界にとって大きな打撃だ。世界的な競争が激化するなかで、賃金引き上げと競争力維持の両立を図るという難題も浮き彫りになった。

中東情勢を背景とした燃料・電力不足や、2024年の大規模反政府デモによる混乱に続くこの新たな障害について、業界関係者は、顧客企業からは既に出荷への影響を懸念する問い合わせが相次いでいると明かす。

インディテックス傘下のザラ、ギャップ、マークス・アンド・スペンサーなどを顧客に持つスパロー・グループは、群衆による工場襲撃を受けて11月2日に生産を停止した。防犯カメラ映像には、複数の人物がレンガや石を投げつけ、窓を破壊し、外壁を損壊しながら正門突破を試みる様子が映っていた。同社のショボン・イスラム代表は、5000人余りの従業員は安全に避難したと述べた。襲撃者の正体は明らかになっていない。

イスラム氏はロイターに「今は業界にとって年間で最も忙しい時期だ。11月には大規模出荷が予定されている。この段階での混乱は極めて深刻で、生産に大きな支障を与え、全ての顧客が懸念を示している」と語った。

<インドの台頭>

労働者側は、現在の月額最低賃金1万2500タカ(100ドル)を3万タカ(243ドル)へ引き上げるよう求めている。直近の賃上げは23年で、最低賃金は56%超引き上げられた。それ以前も50-77%の大幅な引き上げが行われている。

政府は1日、物価上昇率や経済状況、生活費、輸出実績などを考慮して新たな賃金水準を勧告するための賃金委員会を設置した。

米国アパレル・フットウェア協会は、この委員会について「労働者とその家族が生活できる公正な賃金を実現する重要な機会」と評価し、毎年の最低賃金見直し制度導入を求めた。

衣料産業はバングラデシュの国内総生産(GDP)の約10%を占める基幹産業。だが今回、過去と同規模の賃上げが実施されれば、最低賃金は世界第4位の繊維輸出国であるインドを上回る可能性がある。

業界関係者によると、インドの衣料産業における最低賃金は一般的に月額1万3000(137ドル)-1万5000ルピーで推移している。

こうした中でバングラデシュ南東部チッタゴンを拠点とする縫製企業クリフトン・グループのモヒウディン・チョードリー最高経営責任者(CEO)は、インドの競争力が高まっていると指摘する。インドは綿花を自給できるほか、強力な紡績産業を持ち、さらに政府による支援策も整備されているためだ。

またバングラデシュは欧州連合(EU)、英国、カナダなどで無関税・無枠輸出の恩恵を受けているが、インドも現在、バングラデシュ製衣料品にとって第2位の輸出先である英国との自由貿易協定を有している。

バングラデシュの衣料品輸出額は、6月末までの24/25年度に前年比1.65%減の387億ドルとなった。ただしこの7-9月期は105億8000万ドルと前年同期比6.1%増へ回復した。

<コスト増大と値下げ要求>

チョードリー氏によると、最近では米国の取引先が、インド企業からより安い見積もりを受けたことを理由に、ニット製品1着当たり0.03ドルの値下げを要求してきた。「受け入れる以外に選択肢はなかった」と語る同氏によると、燃料費や電力料金、海上輸送費、物流費の上昇により、過去1年間で物流コストは5-7%上昇したという。

同氏は「コストはあらゆる面で上昇しているが、買い手はなお価格引き下げを求めている。利益率は通常2─3%程度しかなく、多くの工場には追加コストを吸収する余地がない。労働者の要求は理解できるが、混乱が長期化すれば雇用や工場の存続そのものが脅かされる」と警鐘を鳴らした。

現在、人件費は業界全体のコストの約10─13%を占めている。

一方ダッカ大学のセリム・ライハン教授(経済学)は、国際的な衣料品バイヤーが重視するのは信頼性だと説明。「多少仕入れ値が安いサプライヤーであっても、納期遅延や品質のばらつき、労働争議による度重なる生産停止が起これば、結果的により高くつく」と述べ、買い手にとっては安定供給こそが大事だとの見方を示した。

Reuters Copyright (C) 2026 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。