Makiko Yamazaki Mariko Katsumura Noriyuki Hirata Takaya Yamaguchi

[東京 6日 ロイター] - 政府が強化する個人向け国債の販売に弾みがついてきた。日銀が金融政策の正常化へ動いてから2年半、市場が予想する政策金利の到達点(ターミナルレート)の織り込みが進み、預貯金より高い利回りを確保できる国債へ資金を振り向ける動きが広がっている。過去最高の販売ペースを更新する一方、銀行などからは預金流出による金融仲介機能への影響を懸念する声も出始めた。

大阪府在住の自営業、蒲池崇さん(46)は8月、中学1年生の長男名義で貯めていたお年玉や入学祝いなど60万円を個人向け国債で運用し始めた。資金は長男の将来に備え、生まれてから手を付けず郵便貯金に預けていたものだった。

個人向け国債に興味を持ったきっかけは、銀行預金の利息だった。「今まで数十円程度だった利息が100円単位になっていた。金利のある世界になったと実感した」と振り返る。株式や投資信託も選択肢として考えたが、「(長男には)毎日の値動きに一喜一憂するのではなく、勉強やサッカーに集中してほしかった」として国債を選んだ。

蒲池さん自身も、為替や金利に関する動画などを通じて国債への理解を深めた。円安で毎月の支払い負担が重いドル建て保険は一部すでに解約しており、残る契約についても継続するか、国債に振り向けるか比較検討しているという。

<過去最高ペースの販売>

こうした個人の資金シフトは販売現場でも鮮明になっている。

「年10兆円の販売が視野に入ってきた」。個人向け国債の販売状況について、金融機関の担当者はこう口をそろえる。

財務省が6日発表した10月発行分の個人向け国債(変動10年、固定5年、固定3年)は1兆0251億円だった。年度ベースでは累計6兆1641億円となり、当初計画(5兆9000億円)をすでに上回った。過去最大だった2005年度(7兆2712億円)を上回るペースにある。

「これまでとは見える景色がだいぶ違ってきた」と楽天証券で個人向け国債の販売を担当する李宗桓債券事業部リーダーは語る。同社で販売する個人向け国債は年初からの半年で前年同期比4.1倍と急拡大したという。

潮目が明らかに変わったのは今年1月ごろ。ベセント米財務長官が日本の金利上昇に厳しい目を向け始めた時期と重なる。

昨年10月の適用利率が1.06%だった主力の「変動10年」は徐々に水準を切り上げ、今年1月には1.23%に上昇した。SBI証券リテールマーケティング部の廣山友梨次長は「(適用利率が)1%を超えてきた辺りから人気が上がってきた。ガラッと金利の水準が変わってきたと受け止められたのではないか」と話す。

<金利上昇が追い風>

市中利回りは一進一退を伴いながらも、基本的には上昇基調にある。新発10年国債利回りは9月に一時3%台に上昇し、足元の変動10年の適用利率も2%を超える水準となっている。

日銀による利上げの到達点を示すターミナルレートについて、市場の目線は9月に2.5%台まで高まった後も2%台前半で高止まりしている。一方、足元の政策金利は1.25%で、市場はなお利上げ余地があるとみている。

こうした状況を踏まえ、引き続き預金から個人向け国債へのシフトは続くとSBI証券リテールマーケティング部の中川貴之部長はみている。

26年6月時点で家計の金融資産2519兆円のうち、現金・預金は1132兆円、投資信託は193兆円、株式は486兆円、債券は38兆円だった。銀行預金から個人向け国債へ資金が動くことで、債券残高が「投信や株式に近い水準まで増えてくるとうれしい」と中川氏は期待を寄せる。

個人向け国債は12月募集分から「個人向け国債プラス」に改称し、非営利法人など一部法人向けへの販売も始める。販売の現場からは、需要の拡大を期待する声も聞かれる。

<預金流出への警戒感>

一方、預金動向の先行きに対する警戒感もくすぶる。

与野党からは個人国債の販売を後押しする施策を求める声が根強い。相続税を軽減する案や、NISA(少額投資非課税制度)の対象に加える案も取りざたされる。年末の税制改正協議に先立ち、財務省と金融庁は2027年度税制改正要望に個人国債の税優遇を盛り込んでいる。

米国では家計金融資産に占める国債の割合は2%程度とされる。日本は現在1%弱にとどまるが、自然体でも海外並みの水準まで比率が高まる余地がある。実額ベースに換算した買い余力は30兆円程度に上る。

ただ、それを上回るペースで資金移動が進むことには金融界から懸念もある。税優遇など追加的なインセンティブによって急激な預金流出が起きた場合、「信用創造機能が発揮しづらくなり、今後さらに膨らむ資金需要に十分対応できなくなるリスクがある」(関係者)との見方が出ている。

残るドル建て保険の解約を検討している蒲池さんは、銀行の窓口で定期預金のキャンペーンを紹介された。しかし、預ける最低金額が決まっているなどさまざまな制約があり、国債の条件のほうが魅力的だったという。「国債の方が何倍も、下手したら4、5倍、国債の方がいいと思った。金利のある世界で、僕から見たら国債のほうがいい」。

首相肝入りの成長投資を加速する上では、金融機関による仲介機能が欠かせない。過度な税優遇はかえって資金配分の不均衡を招き、成長経済への移行を阻む可能性もある。

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